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「おちょやん」の小暮役も話題!俳優、若葉竜也「どんな明るい役も、寂しさや悲しみを心に抱え演じたい」

水上賢治映画ライター
「街の上で」 若葉竜也   筆者撮影

 下北沢を舞台に、最近彼女にフラれたばかり、もっか失意の中にいる荒川青のありきたりかもしれないけど、なんだか愛おしい日常を描いた映画「街の上で」。

 今泉力哉監督のオリジナル脚本による本作で、主人公の青を演じているのはNHKの朝ドラ「おちょやん」の小暮真治役も大いに話題を集めた俳優、若葉竜也だ。

 先に中田青渚のインタビュー(前編後編)を届けたが、今回は若葉の話(全3回)から「街の上で」の作品世界を紐解く

「愛がなんだ」で演じた仲原の反響

 今泉監督作品で若葉の出演といえば、思い出されるのが「愛がなんだ」。深川麻衣演じる葉子に想いを寄せ、振り回されっぱなしの若葉が演じた仲原の存在は大きな反響を呼んだ。

 「街の上で」に入る前に、仲原役の反響をどう受け止めたのか訊いた。

「受け入れてもらえたことは素直にうれしかったです。

 反響のあったコンビニの前のシーンに関しては、たぶんいろいろなアプローチの方法があって、泣いたり、内部爆発を起こして直線的な芝居にしやすいシーンではあったと思います。

 でも、やっぱり人間の感情って、そんなに簡単にくっきりと色分けできるわけじゃない。単色じゃなくて複雑な色が混じり合っている

 弱い人間だからといって人前で号泣できるわけではない。ほんとうに弱いからこそ人前で泣けなかったり、怒りたいんだけど怒り方がわからなかったりする

 人間にはそういう一筋縄ではいかない感情がある。

 僕はそういう単色ではない、たとえば好きなのにまったく真逆の態度をとってしまう人間の滑稽さを芝居で出来たらいいなと思い続けていた。

 ただ、現実は『もっと分かりやすくやって』という演出が入ることがすごく多い

 でも、今泉さんは、一般的なわかりやすさに流されることなく、複雑でわからなさをすくいとってくれた。

 『そうだよね、人間って、そんな簡単じゃないよね』っていうことを今泉さん自身もきっと思っていて、僕が出せたらいいなと思っていた複雑極まりない感情を共有してくれた。

 それを、見てくれた方々から『心が動いた』と言われて、すごく肯定された感じというか。

 今までオーディションや、撮影現場で否定されていたけど、信じてやってきた事をやっと認めてもらえた感覚がありました

「街の上で」のオファーはラブレターをもらったみたいな気持ち

 そして迎えた今回の「街の上で」はどう受け止めたのか?『愛がなんだ』の男性版にも思えなくない内容だが。

「オマージュかなと思ったのは確かですね。

 確か一番最初にお話をいただいたのは『愛がなんだ』の公開中。

 今泉さんとトークショーを確かやった日で。そのときにマネジャーから、5枚ぐらいの企画書を見せられた。

 その時点では、自分が主演だとは思ってなくて。でも、今泉さんとはもう一度一緒に何か作りたい気持ちがあったので、また呼んでくれたのが、単純にうれしかったです。

 何かラブレターをもらったみたいな気持ちでしたね(笑)」

「街の上で」より
「街の上で」より

「役が破綻してる」って言われかねない。そこのギリギリのところをやりたい

 演じた荒川青は、最近、彼女にこっぴどくふられたばかり。でも、未練たらたらでまだ忘れられず、当然立ち直れてもいない。

 ただ、それでも時間は待ってくれない。日々の生活が続く中、彼は何人かの女性と出会うことになる。

 作品は、そんな青の何気ない日常の積み重ねを愛おしく見つめ、人生の機微をつぶさにとらえる。

「今泉さんの映画は出演する前からずっと追っていたんですけど、主人公がまったく成長しないところが好きで。

 映画が始まって終わるまで、主人公が全く成長せずに終わるのが僕はよくわかるんです。人って、ほんとにそんなもんだろうなと思っているから。そう簡単に変わるもんじゃない。

 だから、この(『街の上で』の)話をいただいたときは、まずはいろいろな矛盾を含んでいる人間ということを意識しなければと思いました。こう演じようとか、主演だからどうしようといったことは考えなかった。

 青という人物をキャラクター化しない、ひとりの人間としてどう立たせるかに意識が向きました

 さきほどの『愛がなんだ』の話にもつながるんですけど、人間って、多面的だし、いろんな顔を持ってるじゃないですか。相手によって声色が変わったりとか、態度が変わったりとか。相手によってころころ顔が変わる。

 改めて、そういう人間の複雑さを見せられたらと考えました。

 映画がすごい詳しい人からしたら、『役が破綻してる』って言われかねない。そこのギリギリのところをやりたいなという意識はありました。『しょせんそんなもんでしょう、人間なんて』と納得してもらえるように」

今回、僕はただ佇んでいただけですからね、基本は(笑)

 おそらく青は、というより今泉監督作品の多くもうそうだが一般的なことで言えば主人公になりえない人物だ。

 とりたてて特徴のない市井の人間を演じることは難しくはないだろうか?

「いや、難しいと思います。

 でも、僕はやることはシンプルでいいんじゃないかと考えています。目の前にいる人ときちんと対話する。

 自分うんぬんではない。相手とどう向き合うか。芝居の基礎中の基礎だと僕は思うんですけど、それを忠実にやればいいのではないかと青を演じる上では思いました。

 そうすれば自然と青という人間になっていく。

 今泉さんの演出もそうさせてくれる空間をきちんと作ってくれるし、そこに身を置けばいいかなと。

 あらゆる相手のアクションにきちんとリアクションをとれればいい。それぐらい敏感な体にしておけば、自然と青になるのではないかなと思いました。

 今回、僕はただ佇んでいただけですからね、基本は(笑)。

 青自身がすべて受け身で、自分から何か起こすことはないんです。だから、僕はそこにただ佇んでいた。

 自分が何かやろうとか、主演だからどうこうとかっていう意識は僕は下心だと思っている。主役は、そこにしっかりただ佇んでいればいい。青はそういう役だった。

 だから、ほんとうに周りのスタッフやキャストの役者たちに助けられたっていう。月並みですけど、青に関しては、その想いがすごく強いです。

 穂志(もえか)さん、萩原(みのり)さん、古川(琴音)さん、中田(青渚)さんに感謝です。彼女たちが動いてくれなければ、僕は何もできなかった。彼女たちの存在があったから、僕も青として存在できたと思っています」

「街の上で」より
「街の上で」より

青のようなタイプの人間は嫌いじゃない

 こうして演じた青は、おそらく一般的な言い方でいえば、お人よし。ただ一方で、どうにも歯がゆい、何かが足りない、頼りない人物で彼女にフラれるのも仕方ないと映ってしまう。

「はた目から見たときの彼の優しさや誠実さは、弱さから来ているように感じました。

 弱くて寂しさを隠せないと青は自分でわかっている。だから、人の顔色をうかがうし、すごく言葉を選ぶ。

 『この言葉を言うことで、こういうふうに思われるかも』とか考えるんだけど、ミスして余計なことを言ってしまう(苦笑)。

 強くないから、うまくやり過ごそうとするところもあるし、ちょっとしたずるもする。

 ずるくて弱くてダメだから優しくなれるし、だから優しくも見えるんじゃないかなと。

 僕自身は、青のようなタイプの人間は嫌いじゃないです。

 不本意ながら、予期せぬことに巻き込まれて困った顔してる人は(笑)。『俺はほんとうは被害者なんだけど』という顔をしている人は親近感があります。

 ただ、まあ女性からみたら、恋愛対象には入ってこないでしょうね(苦笑)。頼りなさすぎる(笑)」

「街の上で」 若葉竜也  筆者撮影
「街の上で」 若葉竜也  筆者撮影

どんな明るい人をやるときも、その反対にある『暗』をきちっと出したい

 今回の青もそうなのだが、振り返ると、若葉が演じてきた役というのは、Loser(敗者)というか。何かに敗れ、何かに挫折したことを味わい、受け入れた人物の色を帯びていることが多い。

「僕自身がたぶんそうだと思うんです。だから、脚本上ではそうでない人物も、僕自身がそういう人間だから、その敗者のニュアンスが入ってくるのではないかと思います。

 実際のところ、僕自身、勝ち続けている人よりも、挫折している人とか弱い人間に惹かれる。

 そういった悲しさや寂しさは、人間の永遠のテーマだと思っていて。たとえば寂しさだったら、人を犯罪に走らせたりするぐらい強いエネルギーを持っている。生きていたら、誰もが抱える感情だと思う。

 そこは演じる上で僕は無視できないんですよね。やっぱりみんな大なり小なり寂しさや悲しみを抱えていると思うんで。

 それがたぶん、意識していなくてもどこかで出ているんだと思います。

 『寂しさ』や『悲しみ』は個人的に役者をやる上で、最大のテーマな気がしています。どんな明るい人をやるときも、そこを『明』という単色で染めるのではなく、その反対にある『暗』をきちっと出したいと思っています」

(※第二回に続く)

「街の上で」より
「街の上で」より

「街の上で」

監督:今泉力哉

脚本:今泉力哉 大橋裕之

出演:若葉竜也 穂志もえか 古川琴音 萩原みのり 中田青渚 成田凌(友情出演)

全国順次公開中

場面写真はすべて(C)「街の上で」フィルムパートナーズ

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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