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天使か、小悪魔か?不思議な魅力を放つ女の子を演じた中田青渚「いい意味で女性役を意識しませんでした」

水上賢治映画ライター
「街の上で」 中田青渚  筆者撮影

 下北沢を舞台に、最近彼女にフラれたばかり、もっか失意の中にいる荒川青のありきたりかもしれないけど、なんだか愛おしい日常を描いた映画「街の上で」。

 決してモテる男ではない主人公・青だが、彼の前には4人の女性が現れる。

 その中で、なにかとへこむことの多い青にひとときの安らぎをもたらす一方で、大きく日常をかき回す存在になるのが城定イハ。

 すぐつかめそうなのだけれど、いざつかもうとするとそう簡単にはつかめない。小天使にも小悪魔にも見える。

 こんな不思議な魅力を放ち、物語上のキーパーソンでもあるイハに扮したのは、中田青渚。

 ここにきて映画やドラマへの出演が続き、注目度を増す彼女のインタビューを2回に渡ってお届けする。

今泉監督の作品世界にきちんとその人物として立てるのかわからなくて現場にいくのが少し怖かった

 はじめに、奇しくも同時期の公開となったが「街の上で」「あの頃。」と続けて今泉力哉監督の作品に出演の運びとなった。今泉監督作品についてはこんな印象を持ったという。

「『街の上で』の撮影に入る前に、『愛がなんだ』を拝見しました。

 印象は、変な言い方になるかもしれないのですが、お芝居なのにお芝居に見えないというか。フィクションなのにそうみえない。すべてにリアリティーがあふれている。

 特にセリフはすごいというか。セリフなのにそう感じさせないリアルな言葉が並ぶ会話劇になっている。

 少しでもこちらが力んで演技をしてしまったら、作品に溶け込めない。明らかに浮いてしまう映画を撮る監督だと思って。自分が果たして、その作品世界にきちんとその人物として立てるのかわからなくて現場にいくのが少し怖かったです。

 なので現場の初日はとくに緊張したことを覚えています」

 撮影時は、まだ19歳と10代。今泉ワールドともいうべきうまくいかない恋愛劇の要素がたぶんにある「街の上で」の脚本はどう受け止めたのだろうか?

「『愛がなんだ』をみたとき、そこまで恋愛経験値があるわけではないので、正直なところ、まだ私には早いというか。もうちょっと年を重ねると、微妙なこの恋愛感情が理解できるのかなと思ったんです。

 『街の上で』に関しては、まずどういう映画になるのかが脚本だけだとまったく想像がつかなかった。正直なことを言うと、私は恋愛ドラマには全然感じなかったです。

 ただ、私が演じたイハちゃんは若葉竜也さん演じる荒川さんに好意があるのかないのか、見る人によってかわってくる。そこに恋愛感情みたいなものを見出すことはできるけど、どちらかというと荒川青という人間の物語と思いました。

 その物語的なところの印象よりも、私の中に真っ先に出てきた脚本の印象は、『すごくよくしゃべっている』ということ(笑)。

 ずっと会話が続いていて、ト書きがほとんどない。だから、『なんか難しそうだな』とちょっと身構えたところがありました。

 同時に、一見するとアドリブみたいな言葉のやりとりになっているので、今泉監督の作品がリアルで生っぽく見える要因のひとつがここにあるのかなと思いました」

「街の上で」より
「街の上で」より

自宅に男性を招いてしまうイハの態度の意味は?

 イハは、古着屋の店員でしかない荒川が頼みこまれて出演をすることになる映画の衣裳スタッフ。ひどい失態をさらすも打ち上げに参加する荒川に、ひとり声をかけるのがイハ。

 二次会をキャンセルした荒川は、イハに誘われるまま彼女の実は自宅であった映画の控え場所を訪れることになる。

 このシチュエーションをどう受け止めただろうか?

「『女性が男性を自宅に誘って』という言葉だけを受けとめると、なんだか恋愛が絡みあう印象になるのですが、荒川さんとイハは観てもらえばわかるようにちょっと違うんですよね。

 今泉監督もおっしゃっていたんです。『イハが荒川さんを家に誘ったのは、何となくもうちょっと話してみたいと思ったぐらいで、明確な理由があるわけじゃない』と。

 それはわたしの中では納得しちゃいました。日々、自分の行動でも、『あのとき、なんでああしてしまったんだろう』と思うことがちょくちょくあると思うんです。

 ぜんぜんそういうつもりはなかったのに、よく考えるとちょっと意味深な行動や態度だったなということが。

 このときのイハは、そうだったのかなと納得しました」

初対面にも関わらずそれぞれの恋愛の打ち明ける?

 こうしてイハの自宅でしばし時間を過ごすことになるイハと荒川は、初対面にも関わらずそれぞれの恋愛の打ち明け話を繰り広げる。これにも納得したという。

「初めて会った人に、あんまり知り合いとかには言わないような深い話をするというのはなんとなくわかりました。

 親しい相手だからこそ話せないことってありますよね。だから、ここで荒川さんとイハが互いに自分の恋愛相談みたいなことをすることに違和感は抱かなかったです。

 あの流れだとちょっと話してみようとなるなと思いました」

主人公の青は、自分の恋愛対象には入らない(笑)

 では、主人公の荒川青にはどんな印象を抱いたのだろう?

「どうしてもイハの目線で見てしまうんですけど、演じているときは、すごいかわいらしい人だなって思ってたんです。

 けど、終わって、完成した『街の上で』を見たら、だいぶ頼りないなぁと(笑)。自分の恋愛対象には入らない。もうちょっとシャキッとしてほしい(苦笑)。

 イハを演じているときは、たとえば長回しのシーンとか、すごく緊張してドキドキしたので、『イハはもしかしたら荒川さんに好意を抱いているかもしれない。友達以上かも』という感覚を抱いたりしたんです。

 だから、イハを演じる上では、どっちにも取れるようにはしておきたいなと思いました。見てる人が恋愛のドキドキと捉えても、友達関係として捉えてもどっちでもいいように。

 そこが荒川との関係における、イハの立っている場所と思ったんです。

 でも撮影を経て、改めて冷静に作品を見てみると、私としては『恋愛感情ではなかったな』と、友達みたいな感覚のほうが大きかったのかなって思います。

 もちろん恋愛を見出す人もいると思うんですけどね」

「街の上で」 中田青渚 筆者撮影
「街の上で」 中田青渚 筆者撮影

 先で触れたように男性からみると、イハは小天使にも小悪魔にも見える。中田自身は、イハはどういう人物ととらえて演じたのだろう?

「イハはすごいしっかり者で、自分の意見もちゃんと持っている。

 だから、いい意味で女性ということを意識しないというか。女性だからこうとか、女性らしくこうするといったことを出さなくていいのかなと思いました。

 さきほどの話にも通じるんですけど、荒川さんの前で女の子っぽさみたいなところを出し過ぎると、明らかに狙っているように映りかねない。

 なので、さばけた感じの人物を意識して演じました」

 イハと荒川が向き合って、お互いの恋愛話を語り合う、その自然な会話のやりとりは、本作のひとつの見どころといっていい。

「若葉さんはほんとうに、私がどうセリフを投げたとしてもきちんと受けとめてきちんと返してくれる。

 その安心感があって、ああいう自然な演技ができたのかなと思っています」

(※後編に続く)

「街の上で」より
「街の上で」より

「街の上で」

監督:今泉力哉

脚本:今泉力哉 大橋裕之

出演:若葉竜也 穂志もえか 古川琴音 萩原みのり 中田青渚 成田凌(友情出演)

新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次公開中

場面写真はすべて(C)「街の上で」フィルムパートナーズ

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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