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「最期まで食べて、話して、痛くない死に方があることを知ってほしい」。けったいな町医者が伝えたいこと

水上賢治映画ライター
「痛くない死に方」より

 現在、ロングランヒットとなって話題を呼んでいる劇映画「痛くない死に方」では、原作者と医療監修を、またドキュメンタリー映画「けったいな町医者」では主人公となっている長尾和宏医師。兵庫県尼崎市で26年前に開業し、これまで1500人以上を家で看取ってきた在宅医療のスペシャリストである長尾先生に両作品について訊くインタビューの後編へ入る。前回のインタビューに続き、両作品についていろいろとお話しいただいた。

まさか奥田瑛二さんが僕の役を演じてくれるとは!

 まず、映画「痛くない死に方」には、長尾先生をモデルにした人物が登場する。奥田瑛二が演じた長野浩平だ。在宅医として一度、大きな失敗をしてしまった柄本佑演じる若き在宅医、河田仁に手を差し伸べ、河田にとって大きな影響を与えるベテランの先輩医師になる。

「奥田瑛二さんが僕の役を演じてくれた、と患者さんに言っても誰も信じないんですよ(笑)。『そんなわけないでしょ』と。

 でも本当でした。奥田さんには感謝しています。というのも僕の患者さんへの接し方をそのまま真似てくださった。

 患者さんにかける言葉を、いい意味でセリフに感じさせない、説得力ある言葉として観客のみなさんへ届けてくれている。

 撮影現場に立ち会っていましたが、僕の口ぐせを奥田さんが台詞として話して下さいました。感動して、奥田さんに心の中で大拍手をしながら『ありがとう』って、涙が出そうになりました。『役者さんてすごいなぁ』と思いましたね」

あえて言うならば「痛くない死に方」を観てから「けったいな町医者」

 映画「痛くない死に方」とドキュメンタリー映画「けったいな町医者」は、2つでワンセットとして受け止めてほしい、という。

「どちらにも僕の伝えたいこと、見てもらいたいことがつまっている。ドキュメンタリー映画でリアルを感じ、劇映画というフィクションで観客が想像することでより理解が深まることもある。それぞれに良さがあり、両者は見事に補完的な存在になりました。

 じゃあ、どちらから観るべきかと聞かれたら。あえて言うならば、『痛くない死に方』を観てから、『けったいな町医者』かなと。

 やはり劇映画『痛くない死に方』の撮影が終わってから、初めてドキュメンタリーの『けったいな町医者』の企画が出てきましたからね。

 『けったいな町医者』を先に観たら、『こいつ、下手な歌ばっか歌って、なんちゅう医者や!』と思われるかもしれません(笑)。まずは、僕が考える理想の医療であり、理想の人の死に方を伴明監督にすばらしいひとつの作品に昇華させて頂いた『痛くない死に方』を先に観ていただき、『原作者の現場、ちょっと面白いかも』と興味がわいたなら、『けったいな町医者』も観てもらいたいですね」

「けったいな町医者」より
「けったいな町医者」より

戦後75年以上経過して初めて、日本人に『死』をわが事として

強烈に意識させたのが今回のコロナ禍

 確かに両作品は対のような存在で、それぞれに良さがある。

 どちらも、人生の最期をどう迎えるのか?在宅でのお看取りや尊厳死とはどういうことなのか?終活やエンディングノートという言葉が浸透した今の世の中の関心事があふれた内容で、リビングウイルや終末期医療、つまり生と死に関して深く考える時間になるに違いない。

「そういってもらえるとありがたいです。

 末期がんや老衰になった際に、白い壁に囲まれていくつもの管につながれて溺れながら死ぬのか、住み慣れた自宅で枯れながらも家族や知人に囲まれて生をまっとうするのか。最期の日までなにかしら食べて、話して、管一本無い、痛くない最期が現実にあることを知ってもらいたい

 『けったいな町医者』でも映されてますけど、最期のお別れをするときに体をさすったり、声をかけたりすることはすごく大事だと思うんです。その人の人生を振り返りながら体に触れることで見送る人が死を少しずつ受け入れていく・・・。でも、残念ながら今、コロナ禍によって大切な人の死が家族から分断されています。

 もともと死に目に会えないケースが多いところに、コロナ禍によってさらに増えています。病院や施設で隔離されたまま一人で旅立っていく。つまり体に触れることすら許されない最期。

 今日もさっき末期がんの患者さんを往診したばかりです。そこで『がんとコロナのどちらが怖い?』って質問してみたんです。その患者さんはなんて答えたと思います?

 『コロナが怖い』って答えました。『がんで死にかかってるのにコロナが怖いって、どういう意味?』って聞いたら、『コロナになったら、どっかに連れて行かれて家族と会えなくなる』と。

 『コロナによって大切な人と引き離されるほうが怖い』と言われて、なるほどなと思いました。このようにコロナ禍が日本人の『死』をさらに分断しています。大切な人の肌に直接触れて最期の時を看守るという行為の意味を、コロナ禍の今こそ、考えて欲しい。

 戦後75年以上経過して初めて、日本人に『死』をわが事として強烈に意識させたのが今回のコロナ禍だと感じています。多くの日本人にとって『死』は常に他人事です。なかなか自分自身の身に置き換えて考えることができない。だからこの2本の映画を通して、自分自身がどういう最期を迎えるのか、迎えたいのか、少しでも考えてほしい。自分の死に方についてひとつのヒントになってくれるなら嬉しいです

 本当はこの映画は病院のお医者さんに観てほしいんです。できれば医学部での死生学の授業の教材にもしてほしい。あるいは、医学部を目指す高校生に観てもらって、医者になるとはどういうことなのかを考えてから受験勉強をしてほしい。

 というのも今、日本の終末医療は、医者の考え方と、患者さんの受け取りかたに相当な乖離があります。僕は変わるべきは医者や病院の方だと思いますが、残念ながらあまり聞く耳をもってくれません。

 僕のやり方がベストだと言うつもりは毛頭ありません。でも、患者さんの意向を尊重し満足して見送る、痛くない最期は僕の在宅現場には毎日のようにあります。人生の最終段階における医療の在り方を医学界全体だけでなく広く市民レベルで議論すべき時ではないでしょうか

 そのためにも、まずは一人でも多くの方に観てほしいですね。『長尾の医療観に共感する』という口コミが広がれば、病院の医者もしぶしぶ『それなら見とこか』となるかもしれません。

 2本の映画をきっかけに本音の議論が喚起され、終末期医療が少しでもいい方向に変わることができれば嬉しいです」

「けったいな町医者」

監督・撮影・編集:毛利安孝

出演:長尾和宏

ナレーション:柄本佑

全国公開中

https://itakunaishinikata.com/kettainamachiisha/

場面写真は(c)「けったいな町医者」製作委員会

「痛くない死に方」

監督・脚本:高橋伴明

出演:柄本佑 坂井真紀 余貴美子 大谷直子 宇崎竜童 奥田瑛二

原作・医療監修:長尾和宏

全国順次公開中

場面写真は(c)「痛くない死に方」製作委員会

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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