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「ご自身の終活に活かして頂ければ」。人の最期を看取る「けったいな町医者」長尾和宏先生に訊く

水上賢治映画ライター
「痛くない死に方」より

 現在、ロングランヒットとなって話題を呼ぶ劇映画「痛くない死に方」では、原作者と医療監修、ドキュメンタリー映画「けったいな町医者」では主人公となっているのが長尾和宏医師。

 兵庫県尼崎市でクリニックを開業する長尾医師は、外来診療のかたわら26年間で1500人以上の患者さんを家で看取ってきた在宅医療のスペシャリストである。

 最近は新型コロナウィルス関連のことでニュース番組にも度々出演しているので、目にした方も多いかもしれない

 先日、「痛くない死に方」の高橋伴明監督のインタビュー「けったいな町医者」の毛利安孝監督のインタビューを届けたが、今回は、長尾先生本人にご登場いただき、双方の作品について訊いたインタビューを2回に渡ってお届けする。

伴明監督の脚本には僕が本を通して伝えたかった内容がすべて入っていた

 まず、「痛くない死に方」の話から。自分の原作が映画化されることは光栄だったという。

「(高橋)伴明監督から直接『映画化したい』というお話をいただいたときは、とてもうれしかったです。

 自分の書いた本が伴明監督の映画になるというのは光栄の極みで、しかも監督自身が脚本も書かれるということだったので、どんな形の物語になるのか非常に楽しみでした」

 出来上がった脚本を最初に読んだときも、喜んだ。

「なぜかというと、在宅医療や在宅死、自分の考える理想の医療ど、僕が本を通して伝えたかった内容がすべて入っていたからです。

 一応、作品の原作は『痛くない死に方』と『痛い在宅医』の2冊ということになっているんですけど、伴明監督は、それ以外の僕の著書にもほとんど目を通されたみたいで。

 僕が大切にしている言葉を全部拾ってくれていて、自分の思いを汲んでくれた内容になっていて、感激しました。

 映画を観てもらえれば、僕の伝えたいことが必ず伝わると確信しています」

ドキュメンタリー映画は無理だと思いました

 一方、ドキュメンタリー映画「けったいな町医者」では、カメラの密着取材を受けた。

「『痛くない死に方』の撮影終了後に、『先生、ほんまに映画で描かれているような在宅医療をされているのですか?一度、現場を撮らせてください。DVDの付録にしたいので』とプロデューサーたちから打診されました。気持ちはなんとなくわかる。でも、僕自身は『いやぁ、ちょっと無理です』とお断りしました

なぜなら、患者さんのプライバシーもあるし、それこそ見せ物じゃない。あり得ない企画だと思ったので当然断りました。『患者さんには不利益だけで、なんの利益もありませんから』と

 ただ、制作サイドの熱意に押し切られたといいますか。『痛くない死に方』で助監督を務められていた毛利安孝さんが監督となり、とりあえず撮るだけ撮ってみようという話になったんですよ。

 それで毛利さんがずっとうちのクリニックと在宅現場に来られて、2カ月足らずでしたけど、早朝から夜中まで患者さんの許可を得ながら密着取材されました」

今でも患者さんとご家族には無理を強いてしまったかな、と

 撮り終えた映像を観た制作サイドはDVD特典ではなく映画公開に強い意欲を示した。ただ、長尾先生自身はDVD特典どころか映画公開など絶対無理、と思ったという。

「なぜならば、人が亡くなる場面もあるわけで、まずご家族の了承が得られるはずがないと思いました。

 実際に、たくさんの患者さんやご家族にお断りされました。それはそうですよね。大切なプライバシーや大切な人の死の瞬間を映画として公開してもいいなんて人はまずいませんから。

 とりあえず1軒1軒、お願いして回ったんです。『映画として世に伝えたいことがあるのでなんとか協力して頂けないか』と。

 その中で、『先生の役に立つなら』と、映画の趣旨に理解を示し、映像の使用を許可してくれる方が何人かいらして、映画として成立しそうだ、という話になった。

 使用させていただいたみなさんにはもう感謝の言葉しかないんですけど、今でも患者さんとご家族には無理を強いてしまったかな、と。正直、後ろめたい気持ちが残っています

 ただ、劇映画の『痛くない死に方』には、劇映画の良さがあるけれども、ドキュメンタリーだからこそ大きな感動を与えるという面もあるのでは、と思い直しました。

 『けったいな町医者』に関しては、人が自然に亡くなっていくとはどういうことなのか、より実感を伴って伝わるのではないかと思っています」

「けったいな町医者」より
「けったいな町医者」より

在宅医療を知って頂き、ご自身の終活に活かして頂ければ

 多くの困難を乗り越えて完成した「けったいな町医者」だが、長尾先生にはちょっと不満があるのだとか。

「僕自身は、もっとちゃんと真面目にかっこよくやっていると思うんですけど(笑)。でも、なんか毛利監督は僕のカッコ悪いところばっかピックアップしてるんですよ。

 『もっとええところもいっぱいあったやろ!(笑)』と思うんですけどね。

 要は、あんまり見られたくないところばっかりを切り取られた気がして、内心ちょっと怒ってるんですけど(笑)。

 まあ、自分が引き受けてしまったことだから、仕方ない。『えらいもんに捕まった』と思ってもう観念しました。

 でも、映画公開をご了承してくださった皆様のご厚意とひるまずにしっかりと撮影してくれた毛利監督のおかげで、僕の日常の在宅医療や平穏死がきちんと記録されています。それなりに伝わるものにしてくれた気もしてきました。繰り返しますが、公開を許可して頂いた患者さんとご家族には感謝の気持ちしかありません。

 僕は、今生きていること自体にすごく価値があると思いながら毎日生きています。僕自身もみなさんも明日死なないという保証はありません。当たり前ですが、生は限られたものです。地球や宇宙の歴史から見ればほんの一瞬にも満たない実に儚い時間です。

 今やったら明日コロナにかかって体調が急変するかもしれない。僕は毎日、コロナの患者さんを診ています。今日もコロナの患者さんのとこへ訪問診療してきましたし、発熱外来でコロナの患者さんをこの1年間で200人以上診てきました。

 自分もいい歳ですし不摂生の極みですから、コロナに感染して明日コロリと死ぬかもわからない。実際、急にコロナで亡くなったお医者さんもおられるし。

 だから、もしかしたら明日はもう会えないかもしれない、そういう思いで患者さんと毎日笑顔で接してるんですね。生きてる喜びをお互いかみしめ合う、そんな感覚で外来でも在宅でも接している。

 毎日『町医者冥利』を味あわせて頂いています。患者さんとの距離の近さこそが町医者の楽しさ。まあ今は、近づきすぎるといけませんが。

 どの患者さんとも長い付き合いになります。開業して26年たちましたが、10年、20年以上と10年単位でお付き合いしている患者さんが多くいます。一緒に老いていくので、患者さん側も僕にそれなりの思いがあるはずです。

 ですから、『けったいな町医者』には2019年後半の僕にとってもかけがえのない宝物のような瞬間が収められている。カッコ悪いところを除いてはね(苦笑)。

 なので、僕のことなどどうでもいいので、懸命に生き抜かれた患者さんとそれを支えたご家族の姿などから在宅医療を知って頂き、ご自身の終活に活かして頂ければ嬉しいです

(※後編へ続く)

「けったいな町医者」

監督・撮影・編集:毛利安孝

出演:長尾和宏

ナレーション:柄本佑

全国公開中

https://itakunaishinikata.com/kettainamachiisha/

場面写真は(c)「けったいな町医者」製作委員会

「痛くない死に方」

監督・脚本:高橋伴明

出演:柄本佑 坂井真紀 余貴美子 大谷直子 宇崎竜童 奥田瑛二

原作・医療監修:長尾和宏

全国順次公開中

場面写真は(c)「痛くない死に方」製作委員会

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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