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ウェルター級頂上対決締結。井上尚弥vsフルトン絡みでPFPはどう変わる?

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
ついに決まった!(写真:T-Mobile Arena)

5年越しの大一番がついに実現

 プロボクシング全17階級の中で強豪が集結し、もっとも華があると言われるウェルター級(リミット147ポンド=66.68キロ)の4団体統一戦がついに決まった。WBC・IBF・WBAスーパー統一世界王者エロール・スペンス・ジュニア(米)とWBO同級世界王者テレンス・クロフォード(米)が7月29日、ラスベガスのT-モバイル・アリーナで対決する。

 この統一戦ほど決定に至るまで年月を要したカードはないだろう。さかのぼると、2018年6月、クロフォードがジェフ・ホーン(豪州)にTKO勝ちしてWBO王者に就いた時点から2人の一騎打ちが待望されていた。しかし何度か締結間近、内定のニュースが流れながら正式発表に行き着くことがなかった。4月22日ラスベガスで行われたビッグマッチ、ジェルボンテ・デイビスvsライアン・ガルシア(ともに米)の前後に正式決定するとも報じられたが、空振りに終わった。だが、高収入をもたらしたデイビスvsガルシアにプッシュされるかたちで、スペンスvsクロフォードが日の目を見たとも受け取れる。

 サウスポーのスペンス(28勝22KO無敗)が33歳、スイッチヒッターのクロフォード(39勝30KO無敗)が35歳と2人とも30代半ばであることが交渉が長引いたことを物語る。だが、ボクシングファンの誰もが、この無敗同士の対決を待ち望んでいたし、ウェルター級の頂上決戦だと理解している。願わくば、両雄とも試合までケガやアクシデントに遭わず、良好なコンディションでリングに上がってほしい。

アクシデント続きのスペンス

 ケガと言えば、スペンスは2019年に地元ダラスで車を運転中に追突事故を起こし、奇跡的に軽症に終わったものの、九死に一生を得る体験をした。翌年、復帰した後もボクサーの職業病、網膜剝離を患う。21年8月にマニー・パッキアオ(フィリピン)との大一番が組まれたが、それが災いし直前にキャンセル。引退の危機に立たされた。幸い、手術を行いリング復帰が可能になり、昨年4月、パッキアオに勝ったヨルデニス・ウガス(キューバ)をストップしてWBAスーパー王座を吸収。3団体統一王者に君臨した。ところがその後また交通事故に遭遇したと言われ、ゴシップネタが絶えない。

 これらのアクシデントがクロフォード戦の勝敗予想に影響するのではないかとも言われる。「スペンスはヘルシーなのか?」と。それでも彼の地元テキサス州からの最新情報で、スパーリングパートナーを痛めつけているという話を聞くと、スペンスは“全快”していると思ってよさそうだ。両者がアップしたジムワークの映像ではスペンスの方がクロフォードよりも熱のこもったトレーニングを行っているように察せられる。

鋼鉄のような肉体を誇るスペンス
鋼鉄のような肉体を誇るスペンス写真:ロイター/アフロ

4日前に井上がフルトンに挑戦

 この対決はウェルター級ナンバーワンを決めると同時に最強ランキング、パウンド・フォー・パウンド(PFP)の順位に大きく影響すると見られる。スポーツ専門メディア、ESPNのPFPでクロフォードは1位を占め、スペンスは4位。2位が井上尚弥(大橋=前バンタム級4団体統一王者)、3位オレクサンドル・ウシク(ウクライナ=ヘビー級3団体統一王者)、5位カネロ・アルバレス(メキシコ=スーパーミドル級4団体統一王者)となっている。

 一方、世界的にもっとも歴史と権威があるとされる「リング誌」のPFPは1位ウシク、2位井上、3位クロフォード、4位スペンス、5位カネロの順。スペンスvsクロフォードの4日前に東京・有明アリーナで挙行されるスーパーバンタム級WBC・WBO統一世界王者スティーブン・フルトン(米)vs井上の結果と内容も順位を大きく左右すると思われる。

 では果たして、この2大決戦はどんな結末が待っているだろうか。

 より突っ込んだ予想は別の機会に譲るとして、井上vsフルトンは井上が印象的なKO勝利を飾ると私は見ている。フルトンの地元米国では彼の防衛を支持する識者が少なくないし、日本でもフルトンは一筋縄ではいかぬと見る関係者もいる。だから全くの直感なのだが、少なくとも、そう信じている。

 井上がこれまで何度も見せつけてきたような圧勝に終わると、リング誌は彼を再び1位に据えるだろう。タイソン・フューリー(英)との4団体統一戦がひとまず消滅したウシクは今のところ試合予定が決まっておらず、井上の勝利によって1位から転落することはほぼ確実。同時にクロフォードは相当スペクタクルな勝利を飾らない限り、井上を抜くことは難しい。

待ち遠しい7月の第4週

 ではクロフォードないしスペンスが一世一代のパフォーマンスを披露して4団体統一王者に就いた場合はどうなるか。もちろん井上の勝ち方、パフォーマンスに左右されるが、リング誌のパネリストたちは頭を悩ますだろう。ぜいたくな悩みと言ってもいい。かなり評価が拮抗するに違いない。最終的にダグ・フィッシャー編集長の“一票”に委ねられるかもしれない。

 ESPNの方は井上が抜群の出来で無双の強さを発揮すれば、1位抜擢もあるだろう。とはいえクロフォードは、よほど冴えない勝利以外は1位の防衛は堅いか?またスペンスが長くトップを占めるクロフォードに勝てば、一気に1位奪取もあり得る。いずれにせよ、2試合が行われる7月の第4週はボクシングファンにとってスリル満点の展開が待っている。

 スペンスvsクロフォードの下馬評は拮抗している。オッズはスペンス有利のところもあれば、逆にクロフォード有利の数字を出しているブックメーカーもある。これほど予想するのが難しく、ワクワクさせられるカードも珍しい。敗者が30日以内に再戦を行使できる契約もある。同時に意外と、どちらかの圧勝に終わるのではないかという噂も聞かれる。

パワーでは負けないと言われるクロフォード
パワーでは負けないと言われるクロフォード写真:ロイター/アフロ

 アマチュア時代からウェルター級でキャリアを送るスペンスは160ポンド(72.57キロ)リミットのミドル級でも通用すると言われる。ウェルター級に留まるのは、ひとえにクロフォードとの一戦を実現させるためだという。クロフォードはライト級からスーパーライト級、ウェルター級とクラスを上げ、キャリア初のビッグファイトを成立させた。試合のステイタスはデイビスvsガルシア、そしてデビン・ヘイニー(米)vsワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)のライト級4団体統一戦を凌ぐだろう。

 2大対決まで2ヵ月。今から井上、スペンス、クロフォード3人のPFPのポジションに思いを巡らせてみるのも楽しい。もし井上が2人を凌駕すれば、正真正銘の最強ボクサーとして認知されるに違いない。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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