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全階級最高のカードがお蔵入りも? ウェルター級4団体統一戦交渉はいつまで続くのか

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
ウガス(左)を下したスペンス(Amanda Westcott/SHOWTIME)

クロフォードが難色示す

 ボクシングの全階級を通じて現在、最高のカードと見なされるIBF・WBC・WBAスーパー世界ウェルター級統一王者エロール・スペンス・ジュニア(米)vs同級WBO王者テレンス・クロフォード(米)の4団体統一戦がお蔵入りになる可能性が出てきた。ヘビー級と比肩し屈指のタレントが集結するウェルター級。ここ数年にわたりトップに君臨する2人はパウンド・フォー・パウンド(PFP)ランキングで上位を競っている。以前、交渉の最終段階で物別れに終わった経過があるが、今年4月、2団体統一王者だったスペンスがヨルデニス・ウガス(キューバ)にTKO勝ちしてWBAスーパー王座を吸収し再度、対戦機運が高揚。9月中旬には「11月19日、ラスベガスで対戦に合意」というニュースが飛び交った。

 ところがそれは誤報と言わないまでも状況を正確に伝えていなかった。9月下旬になり、まだ契約が完了していないことが明らかになった。ESPNドットコムなどによるとスペンス、クロフォードとも一度、対戦に同意した。その中で会場のゲート収入(入場料収入)の配分はスペンスの方が多かった。またファイトマネーの総額でもクロフォードは譲歩したという。

 問題は契約書に自身の保証額が明記されていないこと。そしてイベントにかかる経費の透明性に関してクロフォードが疑念を抱いていることだと伝えられる。

すでにスペンスはサイン

 ボクシングシーン・ドットコムの報では10月に入りスペンスは訂正された契約書にサインし、クロフォード側に送り返した。これでようやく試合は実現すると思われたが、いまだにクロフォードは内容に難色を示しているという。そのためスペンス陣営は果たして試合が成立するか半信半疑になっている。一部でクロフォードは、たとえ今後スペンスと対戦する運びになっても次戦は別の相手と戦うのではないかという憶測も流れる。

 クロフォード(38勝29KO無敗=35歳)はプロ転向後、大手プロモーションのトップランクの下でキャリアを送り、ライト級、スーパーライト級、ウェルター級で3階級制覇に成功。スーパーライト級では4団体統一の偉業を達成した。しかし昨年11月、元IBF&WBCウェルター級王者ショーン・ポーター(米)との防衛戦でトップランクとの契約を満了。フリーエージェントを宣言した。PBC(プレミア・ボクシング・チャンピオンズ)傘下のスペンスとは以前よりも交渉がはかどると推測された。だが、事はスムーズに運ばないようだ。

実力者ショーン・ポーターにTKO勝ちしたクロフォード(写真:Mikey Williams/Top Rank)
実力者ショーン・ポーターにTKO勝ちしたクロフォード(写真:Mikey Williams/Top Rank)

本当はスペンスが避けている?

 他方で業界の情報通によると交渉の足踏みはスペンスにとって願ったり叶ったりだという話も聞かれる。すでにサインしていると言われるスペンスだけににわかに信じられないが、勝敗予想でやや有利と出ているクロフォードに黒星をなすりつけられることを避けたいのが本心だという。スペンス(28勝22KO無敗=32歳)はここで商品価値が低下するのを懸念しているのだろうか。

 そうなるとキツネとタヌキの化かし合いの様相さえ呈してくる。今まで無傷のキャリアを送り、ピンチに陥ったシーンもないクロフォードだが、年齢的に先は長くないと見られる。ビッグマッチの機会は限られる。“稼げる”相手はスペンスかスーパーウェルター級に進出して4階級制覇を狙うかだろう。自然とファイトマネーに関してシビアな対応をしても不思議ではない。

 スペンスには同じくPBC傘下のS・ウェルター級4団体統一王者ジャメール・チャーロ(米)に挑むオプションも話題に上がる。これはクロフォード戦に相当するビッグマッチ。それでも3つまでベルトを統一したのだから、後年に名前を残す意味でもウェルター級に“こだわる”のが王道に違いない。それは当然クロフォードにも当てはまる。

PPV収入がネック

 現状では当初の11月19日開催は不可能。12月初旬から中旬も難しくなった。来年2月頃というスケジュールがもっとも信ぴょう性がある。あるいはスペンスが危惧する、もしくは望むように?またしても流れてしまうのだろうか。スペンスは2020年にクロフォード戦が、21年にはマニー・パッキアオ戦が締結間近と言われながら連続して雲散霧消した。本人が切望するビッグネーム対決。ファンの期待に応える意味でも交渉の進展と締結が待たれる。

すでに11月19日のバナーは出来上がっていたが……(写真:FIGHT MAG)
すでに11月19日のバナーは出来上がっていたが……(写真:FIGHT MAG)

 ここまで述べてきたように両者の思惑が折衝が行き詰まる要因だが、一方で収益の基幹をなすPPV購買件数(イベントごとに別料金を払う視聴システム)に両陣営とも神経をとがらせている様子がうかがえる。最近の例では9月のカネロ・アルバレスvsゲンナジー・ゴロフキン第3戦は米国に限り、期待値を下回る結果になった。スペンスvsクロフォードも両者の実力、背景は申し分ないものの、果たしてPPV購買件数がどこまで伸びるか予断を許さない。

 交渉の停滞は両者の知名度を上げるためと言ったら語弊があるだろうか。同時に予めPPVの“苦戦”を前提に交渉が難航している様子も垣間見える。このカードの魅力は往年の名勝負、シュガー・レイ・レナードvsトーマス・ハーンズ、フェリックス・トリニダードvsオスカー・デラホーヤに匹敵するものがある。結果によってPFPランキングの順位もこの2人とバンタム級3団体統一王者井上尚弥(大橋)がどう絡むか興味深いものがある。

 両陣営の間を取り持つ業界の重鎮の一人スティーブン・エスピノサ氏(ショータイム・スポーツ社長)が明かす「エロールもスペンスも他の試合のことは頭にない。我々にはB、C、Dプランは存在しない。2人が快くサインを交わす状況をつくり出さなければいけない」という言葉を信じたい。果報ならぬ朗報は寝て待て、か?

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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