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ネリがPFPトップに挙げるデービスが6月防衛戦。井上尚弥を追う最強候補も復帰宣言

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
29勝27KO無敗のジェルボンテ・デービス(左)(写真:ロイター/アフロ)

クロフォードと“タンク”

 ルイス・ネリ(メキシコ)が来日した。5月6日、東京ドームでゴングが鳴るスーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥(大橋)挑戦まで2週間。ネリはチームとともに妻と3人の娘といっしょに羽田空港に降り立ったという。ちなみに今メキシコ経済は空前の好景気に恵まれている。通貨のペソが「ペソ高ドル安」状態で富裕層の中には日本旅行を楽しみにしている人が少なくない。陣営の一人に聞くと、メキシコからサポーターが大挙してやって来るかもしれないと言っている。イベントの盛り上がり、熱気を感じてしまう。

 さて、羽田で記者団に対応したネリ(29歳)は井上の評価に関して「テレンス・クロフォード(米=スーパーライト級とウェルター級で比類なき王者に就き、現在ウェルター級3団体統一王者)やジェルボンテ・デービス(米=3階級制覇王者で現在WBA世界ライト級王者)のようにパウンド・フォー・パウンド(PFP)ナンバーワンとは思わない」というコメントを発した。

 クロフォードは米国の老舗ボクシングメディア「リング誌」やスポーツ専門メディアのESPNなどのPFPランキングで井上とトップ争いをしている。2023年の「世界のMVP」を井上と争った選手としても知られる。珠玉のクラス、ウェルター級の4本のベルトを懸けて対決したエロール・スペンス・ジュニア(米)戦で圧勝。不動の名声を獲得した。井上のライバルとしてクロフォード以上の選手は現在いないだろう。

 もう一人、ネリの口から出たデービスは今のところ各PFPランキングで上位に顔を出していないが、その強さは際立っている。ニックネームは“タンク”。身長166センチと小柄ながら超アグレッシブな強打のサウスポーで、スーパーフェザー級、ライト級、スーパーライト級を制した。昨日、番狂わせで無敗の2階級制覇王者デビン・ヘイニー(米)を3度倒して判定勝ちしたライアン・ガルシア(米)に7回KO勝ち。その1年前のガルシア戦からリングを離れている。

デービスvs.ライアン・ガルシア

ボルティモアの悪童

 ブランクの理由は地元ボルティモアで起こしたひき逃げ事件で有罪判決を受け、服役したことが影響している。さらにガルシア戦が高収益を上げ、デービスのファイトマネーは約42億円に達したとも伝えられる。そのため十分に英気を養う時間があったとも言えそうだ。そのデービスの復帰が決まった。

 6月15日、ラスベガスのMGMグランドガーデン・アリーナ。相手はWBA2位フランク・マーティン(米)。同日はスーパーミドル級4団体統一王者サウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)挑戦が見送られた、カネロの最大のライバルと呼ばれて久しいデビッド・ベナビデス(米)がダブルヘッダーで出場する。ライトヘビー級進出を決意したベナビデスはオレクサンドル・ゴズディク(ウクライナ)とWBCライトヘビー級暫定王座決定戦を行う。

 デービス(29歳)が29勝27KO無敗。マーティン(29歳)は18勝12KO無敗。パワー自体はデービスに分がありそうだが、同じサウスポーのマーティンはよりテクニシャン型でパンチ力も侮れないものがある。一部で「デービスはリスクが少ない相手を選んで戦っている」という意見も聞かれるが、マーティンはかなり危険な挑戦者に映る。

 マーティンは昨年7月の最新試合でアルテム・ハルチュニアン(アルメニア/ドイツ)に3-0判定勝ち。試合はWBCライト挑戦者決定戦として行われたが、結局マーティンはデービスに挑むことになった。WBC世界ライト級王座にはその後、決定戦で勝ったシャクール・スティーブンソン(米)が就いている。以前からデービスのライバルと見なされるスティーブンソン(21勝10KO無敗=26歳)はPFPキングを狙う強豪でもある。

デービスを追従するスティーブンソン

 そのスティーブンソンは7月6日、地元ニュージャージー州ニューアークでハルチュニアン(12勝7KO1敗=33歳)との防衛戦に臨む。1月末、X(旧ツイッター)で引退を発表したスティーブンソンだったが、大方の見方どおり撤回。ハルチュニアン戦がプロモーター、トップランクとの契約最後の試合となるスティーブンソンが取りこぼす結末は考えにくい。そしてスティーブンソンは契約を更新せず、フリーエージェントになると噂される。そうなればプロモーター間のハードルを越えて、デービスvs.スティーブンソンの一騎打ちが実現に向かう可能性が広がる。

 一時、米国メディアや関係者から井上尚弥とのドリームマッチが話題となったデービスだが、階級差が大きく、現実的ではない。ただしデービスやスティーブンソンの活躍次第で井上がPFPランキングで脅かされる展望も考えられる。ネリがデービスの名前を出したのは、おそらく彼と同じスタイルを持つ、サウスポーのファイタータイプだからだろう。

かみ合わない凡戦に終始したスティーブンソン(左)対ロス・サントス(写真:Mikey Williams/Top Rank)
かみ合わない凡戦に終始したスティーブンソン(左)対ロス・サントス(写真:Mikey Williams/Top Rank)

スティーブンソン最強説

 一方スティーブンソンは時には非常に退屈な試合を演じることがある。WBC世界ライト級王座を争った昨年11月のエドウィン・デ・ロス・サントス(ドミニカ共和国)戦は筆者が観た試合でもっともアクションに乏しい一戦だった。またスーパーフェザー級時代に行ったジェレマイア・ナカシリャ(ナミビア)戦も同様。だが「勝ちに徹すれば、スティーブンソンが一番強いのではないか」と提唱する識者もいる。元ウェルター級王者でテレビ解説者を務めた後、複数の映像メディアで自論を展開するポーリー・マリナージ氏だ。

 「シャクールはこのスポーツでもっとも実戦的な能力に長けた選手だ。彼は危険な相手をコントロールする術を知っている。エキサイティングかどうかは関係ない。凡戦を演じても勝てばいいと考えている。シャクールはボクシングの“胆”の部分を握ってしっかり勝つ」

 PFP3傑の一人、ヘビー級3団体統一王者オレクサンドル・ウシク(ウクライナ=21勝14KO無敗。37歳)は5月18日、サウジアラビア・リヤドでWBC王者タイソン・フューリー(英)と4団体統一戦を行う。そしてクロフォード(40勝31KO無敗=36歳)は8月2日、ロサンゼルスで1階級上のWBA世界スーパーウェルター級王者イスマエル・マドリモフ(ウズベキスタン)に挑む予定。井上はこの2人とPFPトップを争うと同時にデービス、スティーブンソンの足音を聞いている。一気に過熱し始めたレースから目が離せない。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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