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飲んで吸っても勝った金満ライアン・ガルシアが最後に身を亡ぼす悪習とは

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
ヘイニーを3度倒して勝利したガルシア(写真:Cris Esqueda/GBP)

オーバーウエートは常套手段

 ニューヨークのバークレイズ・センターで20日(日本時間21日)行われたWBC世界スーパーライト級タイトルマッチがいまだに議論の的となっている。王者デビン・ヘイニー(米)を3度倒して判定勝ちしたライアン・ガルシア(米)の試合内容は申し分なかったが、前日の計量でリミットの140ポンドを大幅に超過する143.2(64.95キロ)を計測。ハカリに乗ったガルシアはビールをラッパ飲みするパフォーマンス(中味はソフトドリンクだったという説もあるが)を披露してひんしゅくを買った。

 体重オーバー違反は初めてだが、ガルシアは勝利をつかむ常套手段として、これまでも相手に独自の体重設定を強要してきた。2年前のハビエル・フォルトゥーナ(ドミニカ共和国)戦では元スーパーフェザー級王者でライト級に進出したフォルトゥーナにリミット140ポンドを押し付けてKO勝ち。スター選手対決として話題を集め、高収益をもたらした“タンク”ことジェルボンテ・デービス(米)戦でもデービスが保持するWBA世界ライト級王座は争われず、ガルシアは同級リミット135ポンドを1ポンド超える136ポンドリミットで試合を成立させた。

 デービス戦からの復帰となった昨年12月のオスカル・デュアルテ(メキシコ)戦でも本来135ポンドがリミットのライト級で戦うデュアルテにスーパーライト級を超える143ポンド設定の試合を実現させて8回KO勝ちを収めた。インスタグラムのフォロワーが1,050万人といわれる人気選手ガルシアは売り手市場を享受している。その延長が今回のヘイニー戦だったとも言えるのではないか。

狂乱は駆け引きだった?

 もちろんガルシアの挙動は手放しで許されるものではない。米国でも批判的な意見を述べる識者がいる。元スーパーライト級、ウェルター級王者でレジェンド、マニー・パッキアオ(フィリピン)と3度対戦したティモシー・ブラッドリー氏は「ガルシアは体重をつくることを学ばなければならず、完ぺきなプロフェッショナルになるために契約を尊重しなければならない」と苦言を呈する。

 スポーツ専門メディアESPNのボクシング中継で解説者を務めるブラッドリー氏は「たった3ポンドだと言うけど、どうしてその“たった”が守られなかったんだ?」と主張。そして「ヘイニーは“勝てない”状況だったかもしれない。試合前の狂乱はガルシアの駆け引きだった可能性がある。もし2人がリミットの140ポンドで戦っていたら違った結果も想定される」とつけ加える。

 さらにブラッドリー氏は「140ポンドに落とすことにサインしたのだから体重をつくれないと最後どうなるか十分に承知していただろう。ライアンは同じく体重調整が苦しかったヘイニーが戦力ダウンすることが分かっていた」とツッコミを入れる。確かにリミットで合格したヘイニーも全裸になってハカリに乗り、体重苦を想像させた。

計量後やり合うヘイニー(左)とガルシア(写真:Cris Esqueda / GBP)
計量後やり合うヘイニー(左)とガルシア(写真:Cris Esqueda / GBP)

 とはいえブラッドリー氏は“ムチ”と同時に“アメ”も持っていた。

 「この勝利によってガルシアには輝く未来が拡がった。彼は幸せ絶頂で天にも昇る心地だろう。誰もがライアンのことを話している」

 また同じくパッキアオと対戦歴がある元WBO世界スーパーライト級王者クリス・アルジェリ氏も「君は勝った。屈辱的だけど我々は誤りを認めよう」と映像メディアで発言。試合前、ヘイニー有利でガルシアに勝ち目がないと予想したことを悔やんだ。同氏は「ライアンはフィジカル的にもっとも恵まれた選手。彼はもっとも規律正しい男ではないけれど、才能を絶妙なタイミングで発揮した」と称賛を惜しまない。

 識者には「ライアンよ、図に乗るな!」とも言って欲しかったが、米国では「勝てば正義」といった雰囲気が漂う。試合前「俺は酒も飲むしマリファナだってやっている」とウソぶいていたガルシアは「毎日のように酒を食らっていたけど、それでもヤツを打ち負かしたぜ」と試合後にもぶちまけた。アンチファンが増えたとも言われるが、まったく気にする様子がない。

 敗者ヘイニーはもとより、プロモーターのゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)など周囲も振り回したガルシア。GBPを率いる元6階級制覇王者オスカー・デラホーヤ氏は「私は彼のベビーシッターでもマネジャーでもない」と突き放した。だがプロで31戦無敗だった難敵ヘイニーを下したガルシアは一躍ビッグマッチの主役へと躍り出る見通しが拓けてきた。

笑いが止まらないガルシア。果たして未来は?左がデラホーヤ氏(写真:Cris Esqueda / GBP)
笑いが止まらないガルシア。果たして未来は?左がデラホーヤ氏(写真:Cris Esqueda / GBP)

ファイトマネーは75億円?

 “タンク”デービス戦で日本円で約21億円のファイトマネーを得たといわれるガルシアは、このヘイニー戦で3000万ドル(約45億円)が保証されていた。しかし最新情報では5000万ドル(約75億円)に達するとも伝えられる。もし本当なら、現在ボクシングのアイコンと呼ばれるスーパーミドル級4団体統一王者サウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)の報酬を軽く上回る金額だ。

 恵まれ過ぎるガルシアがたびたびメンタル面のトラブルを抱えるのは理解に苦しむ。逆にその環境が心の病気を誘発するのだろうか。最終調整の段階で減量を放棄し、計量で見せた突飛な行動はボクシングを冒とくするものと捉えられても仕方ない。リミットオーバー1ポンドにつき50万ドルが科されたペナルティーは150万ドル(約2億2500万円)に達する。

ギャンブルに手を染め出した

 タイトル獲得の権利が消滅したことも含めて「もったいない」と思ってしまうが、ガルシアにとっては「はした金」だったかもしれない。高額ファイトマネーに加えて、試合前に公言していたようにガルシアは自身の勝利に賭けていた。その額は200万ドル(約3億円)。それが番狂わせの勝利で1200万ドル(約18億円)に膨れ上がるという。仮に試合報酬が75億円として、プラス18億円で93億円の荒稼ぎ。笑いが止まらないとはまさにこのことだろう。他方でガルシアはもっと狂いそうだ――と危惧されるかもしれない。

 果たして自身の試合にギャンブルとして金を投じる行為が合法かどうか、今ネット上で論議が巻き起こっている。ギャンブルタウンのラスベガスなら合法だが、ヘイニー戦はニューヨークで開催された。ガルシアは“棚ぼた”ともいえる18億円をすんなりとポケットに収めることができるだろうか。

 前例として元最強ボクサー、“マネー”ことフロイド・メイウェザー氏が今回のガルシアと同じ設定で大金を得たことがあった。昔と違い、インターネットでBET(賭け)が一般的となった今は、試合の開催地うんぬんは問題ないのかもしれない。

 ただし、飲酒、マリファナ、ギャンブルにのめり込んだ“キングライ”ことガルシア(25歳)がそう遠くない未来に身を亡ぼすシナリオを心配するメディアもある。元凶は前者2つにしても“3つ目”が一番危ないという声も聞かれる。超大物メジャーリーガーの通訳を務めた人物のように……。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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