前代未聞の牛肉相場のなか、なぜ和牛の輸出目標額は1112%増という強気な数字だったのか

食肉市場の枝肉 ※筆者撮影

先日、3月23日に「2030年、和牛の輸出額1112%増は達成できる目標だったのか」という記事をUPしました。その時点でも、現在のYahoo!ニュース個人のラインナップのなかではずいぶん場違いなニュースでしたが、1週間経ってますます場違い感は増しています。でも新型コロナ関連の記事はなるべく有料記事にしたくないのです。また有料記事では「食」や「生産」にまつわるマニアックな話や、オープンな場では話しづらいことを書いておりますもので、空気を読まない段、何卒ご容赦ください。

さて、前回は2019年時点で海外向けに297億円を売り上げる、国産の牛肉を11年後には3600億円にまで伸ばしてしまおうという超強気な農林水産省の目論見について触れました。実に1112%超の上積みを見込んでいたわけですが、(いまの情勢を抜きにしても)この目標は達成され得るものだったのか、と畜頭数や生産量という観点から検証しました。

ざっと要素をまとめると、と畜頭数、生産量ともにこの25年間、落ち込み続けているのに、2030年までの11年で生産量を2割増を前提としていること。そして「農林水産物・食品の輸出額を2030年に5兆円とする政府の新目標」の内訳について、当初農林水産省が明らかにしていなかったということに触れました。

政策検討委員会等で議員が、何度も要求してようやく出てきた5兆円の内訳が「牛肉は1112%増の3600億円」……というずいぶんと景気のいい数字で、取れるリアクションとしては思わず頭を抱えるか、苦笑するかというところでしょうか。

最近の永田町の先生方にも通じるところがありますが、「希望的観測」を曲げることなく物事を組み立てようとすると、事実が曲がってしまいます。事実を曲げてはなりません。事実を曲げずに妙案を出し、汗をかくことで「希望的観測」に近づけるのが関係各位の仕事です。

国産の牛肉、特に和牛が抱える問題は根深いものがあります。政府が目標として定めている2030年に向けて、和牛を輸出ビジネスとして成立させられるか――。昨今の時勢をベースにすると計算の基礎が動いてしまうので、まずは新型コロナウイルスによる経済的落ち込みは計算に入れずに論を進めようと思いますが、少なくとも目標に対するハードルはますます高くなったのは間違いありません。

生産者の維持、後継の育成ができる価格体系を保つことができるか

実はいま、和牛は国内市場である種の危機的な状況を迎えています。それこそ新型コロナにまつわる「経済対策」として浮上した「お肉券」とも関わりがあります。今回のような激甚災害にも等しい、いえ、ある意味それ以上の苦境に立たされているいま、給付は「国民の生活を保護する」ために行われるべきなのに、その一部が「お肉券」なる謎の紙切れにすり替えられそうになっていました。

当初、単なる陳情が独り歩きして報道されたのだろうと思っていたら、いつの間にか現実感を伴う話になっていて驚愕しましたが、牛肉業界にもダメ元でも陳情したくなるような理由はあるのです。もちろん、今回のような危機的状況で政府が本気で検討すべき案件か、政策として真剣に検討されうる課題かはまったく別の話ですが。

江藤氏は「全国のと畜場の倉庫に和牛の在庫が積み上がっており、これ以上入らない」とし、「生産から流通、消費の流れを何とかする施策は必ず必要になる」と述べ、生産者への支援の必要性を訴えた。

出典:2020年3月27日付朝日新聞

実は現在、和牛の枝肉価格の相場は見たことのない動きで推移しています。今年2月の枝肉の価格は対前年比で86%。3月に至っては、途中までの暫定値ですが、73.1%という落ち込みを見せています。

それでも2月、3月の落ち込みについては「新型コロナウイルスの感染により、インバウンド客が来なくなった」ことから高級飲食店の仕入れが弱含みになったという面もありますが、そもそも昨年末の時点で和牛の枝肉相場は例年にない落ち込みを見せていました。

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牛枝肉の価格の動きは毎年だいたい似たようなカーブを描きます。歳末需要に応じて年末にもっとも高くなり、年明けから夏にかけてじわじわと下がっていく。7~8月に底を打った後、また年末へ向けて上がっていくのですが、2019年は夏から秋にかけてまったく上昇する気配がありませんでした。いやそればかりか、さらに下げました。東京市場の格付A4の枝肉は、例年、取引価格が高くなる12月に前月の値を割り込むという、前代未聞の値動きを見せたのです。

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食のブランド化と多様化が進むなか、「安全」で「おいしい」食とは何か。生産地からレストランの最前線まで、食にまつわるすべての現場を巡り、膨大な学術論文をひもとき、延々と料理の試作を繰り返すフードアクティビストが食とグルメにまつわる奥深い世界の情報を発信します。客単価が二極化する飲食店で起きていること、現行のA5至上主義の食肉格付制度はどこに行くのかなどなど、大きな声では言えない話をここだけで話します。

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東京都武蔵野市生まれ。食専門誌から新聞、雑誌、Webなどで「調理の仕組みと科学」「大衆食文化」「食から見た地方論/メディア論」などをテーマに広く執筆・編集業務に携わる。テレビ、ラジオで食トレンドやニュースの解説なども行い、食にまつわるコンサルティングも。著書に『大人の肉ドリル』『新しい卵ドリル』ほか。共著のレストラン年鑑『東京最高のレストラン』(ぴあ)審査員、『マンガ大賞』の選考員もつとめる。経営者や政治家、アーティストの書籍やWeb企画など多様なコンテンツを手がけ、近年は「生産者と消費者の分断」、「高齢者の食事情」などにも関心を向ける。日本BBQ協会公認BBQ上級インストラクター

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