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落雷中断も、帝京大が盤石3連覇。江良主将「ワンハートになれた」、次の目標は日本代表。

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
大学3連覇を喜ぶ帝京大フッカー・江良颯主将=13日・国立競技場(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 不測の事態にも、王者の強さは揺るぎなかった。帝京大が『重戦車FW』同士のフィジカルバトルを制し、3大会連続12度目の大学日本一の座に就いた。フッカー江良颯(えら・はやて)主将は号泣した。万感の思いがこもる。

 「部員全員の喜んでいる顔、姿を見たら、あぁワンハートになれたなあ、という実感がすごくわいたんです」

 ◆前代未聞の雷による試合中断

 世の中、何が起こるか分からない。13日の東京・国立競技場。凍てつく寒さの中、約1万8千人の観客が熱い声援を送る。雪が降り出したと思ったら、何度も遠雷が響きわたった。空は真っ黒、光が走る。前半のなかばには、雷の影響で試合が55分間も中断した。

 こんなの大学選手権では初めてのことだった。試合は、キックオフから互いの自慢の重量FWがぶつかりあっていた。とくにスクラムでは、帝京大のプライドと明大のプライドが激突した。江良主将の述懐。

 「僕たちは常にセットプレー(スクラム、ラインアウト)のところを中心に1年間積み上げてきました。そこにプライドを持ち続けて、真っ向勝負を挑みました。明治大学さんもそこにプライドを持って勝負してきました。僕たちは逃げずに、戦い続けたんです」

 両チームとも、スクラムはセットアップ(構え)にこだわった。ヒット勝負。相手よりいい姿勢で早く組み込もうとしていたのだろう、序盤から、両チームともアーリーエンゲージ(レフリーの掛け声よりも早く組みに行く行為)、アーリープッシュ(レフリーの掛け声よりも早くプッシュする行為)の反則が相次いでいた。

 キックオフ直後に帝京大は先制トライを挙げたが、勝負どころのスクラムでは思うように重圧をかけることができていなかった。前述した通り、前半22分で雷のため、異例の中断に入った。あえて勝負のアヤを探せば、この時間の使い方だったかもしれない。

 ◆合言葉は「帝京ガンツ」。中断中にフロントロー陣がスクラム談義

 帝京大はロッカールームではなく、その隣の人工芝の練習エリアで、防寒具を羽織ってからだを軽く動かし続けた。時間が延びれば、椅子に座って、選手同士で言葉を交わした。フッカーの江良主将は、左プロップの津村大志、右プロップの上杉太郎とスクラムについて話し合った。

 江良主将は「あの中断中に話したのが大きかった」と振り返った。

 「僕らもアーリープッシュしていたので、焦らず、いつも通り、しっかり組もうと確認し合ったんです。具体的にいうと、ヒットしたあと、もう一回シンクして、まとまってプレスしようって。うしろのヒットも大事にしようって。そして、一回、自分たちの足を止めて、全員でまとまって押していこうと話し合いました」

 スクラムの合言葉が『帝京ガンツ』。SF漫画の「GANTZ」から来ている。江良主将によると、その漫画に登場する黒い球体ならぬ、深紅ジャージの球体のイメージだそうだ。

 「そう、帝京ガンツです。全員が同じ方向を見て、硬い球体のようにまとまりを持って押し続けるんです」

 ◆スクラム改善、幸せの涙

 スクラムは改善された。フッカーと両プロップがバインドを強めて低く構え、当たって、さらに両腕に力を加える。一回からだを沈めて、同じ方向に向けて、バック5(両ロックと両フランカー、ナンバー8)の押しを前に伝えていく。重量をためてプッシュ。

 試合は再開した。直後、帝京大はラインアウトからのモールを押し込んでトライを奪った。1度はTMO(ビデオ判定)で取り消されたけれど、その後、ラインアウトからもモールを押し込んで、江良主将が右サイドに飛び込んだ。トライだ。

 前半は終盤に2トライを返されたものの、帝京大は後半、マイボールのスクラムで明大のコラプシング(故意に崩す行為)の反則を何本も奪い出した。「明治さんに圧力をかけられたと思います」と、江良主将は分厚い胸を張る。

 ラスト3分。江良主将がまたもドライビングモールからサイドを突いてインゴールに飛び込んだ。実は、この時、主将は両足をつってしまった。「もう痛くて」と苦笑する。

 「やばいと思ったんですけれど、もう、行くしかないと思って飛び込みました。みんなが喜んでいる姿を見て、痛みも忘れて、僕も喜びました」

 ここで江良主将は交代で退場した。「出るのはイヤでしたね。最後までやり切りたかったです」と胸の内を明かす。

 34―15でノーサイド。やはり、帝京大は強かった。試合後の涙のワケは?と聞けば、江良主将は言葉に実感をこめた。

 「はい。幸せの涙でした」

 ◆堀江先輩に続け、日本代表フッカーへ

 江良主将の座右の銘が『雲外蒼天(うんがいそうてん)』。そのココロは、「雲を突き抜けたら、晴天が待っている。努力して、つらいことを乗り越えれば、自分の世界が広がる、つまりいい結果が待っている」そうだ。 

 天賦の才をもつ男がひたむきに努力すれば、そりゃ、いい選手になるに決まっている。卒業後は、リーグワンの昨季王者のクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(東京ベイ)に進む。次のターゲットは、リーグワン王者、そして、日本代表入り。

 帝京大OBで、4大会連続ワールドカップ日本代表フッカーの堀江翔太は今季限りの引退を表明した。同じポジションの堀江に憧れる江良はもちろん、日本代表を視野に入れる。

 記者と交わるミックスゾーン。実直、誠実な江良主将は背筋を伸ばし、記者に応え続ける。ADカードの赤いひもを器用に右手人差し指でくるくる巻きながら。

 日本代表は?と聞けば、表情がパッと明るくなった。

 「はい、目指しています。夢であり、目標でもあるので、そこに向けてひたむきに、愚直にやりつづけるしかないと思っています」

 次の2027年ラグビーワールドカップも意識しているそうだ。

 「そこに対して、準備していきたいし、アピールもしていきたい」

 才能も覚悟もある。日本代表フッカーへ。2024年新春、江良主将の夢は膨らむのである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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