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次は強力スクラムの京産大と激突。明大フッカー松下潤一郎「メイジのラグビーとは前に出る事」

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
「日進月歩」をモットーとする明大フッカー松下潤一郎の突破(写真:松尾/アフロスポーツ)

 ことし創部100周年を迎えた明治大学ラグビー部が、全国大学選手権準々決勝で筑波大に45-7と圧勝し、2大会ぶりに準決勝に進んだ。『重戦車FW』の異名をとるフォワードがスクラムで圧倒。「メイジのラグビーとは?」と聞けば、フッカーの松下潤一郎は「前に出る事」と即答した。

 そう、故・北島忠治監督が唱えた精神的支柱、『前へ』である。伝統を担う松下が続ける。

 「ボールを持てば、前にぶち当たる。ひとりひとりがレッグドライブして前に出る。ディフェンスでも前で止める。前に出るのがメイジのラグビーだと思います。もちろん、それはスクラムでも同じです」

 ◆スクラムはいいヒットが大事

 12月23日の東京・秩父宮ラグビー場。負けたら終わりのトーナメント戦。明大はキックオフの直後のマイボールのスクラムをぐいと押し込んで相手のコラプシング(故意に崩す行為)の反則を奪った。

 松下の述懐。

 「去年はここ(準々決勝)で負けていたので、すごく緊張感があったんですけど、試合が始まるといつも通りにできました」

 試合前、マイボールのスクラムは全部、ペナルティーをもらおうと話し合っていた。8人のFWが意思を統一する。まずはいいセットアップ(構え)をする。「そして」と、4年生フッカーは続けた。

 「いいヒットをする。そこが大事なんです。いいヒットをして、8人がぎゅっとまとまるんです。ボールが入れば、それをエイトの足のところに持って行って、“レディー・ゴー”の掛け声で押すんです」

 ◆筑波大のコラプシングを誘発

 マイボールのスクラムでは、紫紺と白のジャージの固まりがぐぐっと前に出る。1番側が前に出る格好になりながらも、態勢を立て直し、まっすぐに押し込んだ。相手ボールのスクラムは、すぐにボールを出すダイレクトフッキングだったけれど、それでも何本か、ぐいと押し込んでコラプシングの反則を奪った。

 試合後、松下が笑顔を浮かべる。言葉に満足感が漂う。

 「スクラムのところは、結構、自分たちのいいヒットができたり、ペナルティーをもらったりしたので、よかったのかなと思います」

 スクラムで優位に立てば、明大は勢いづく。相手のファイトにブレイクダウンでは苦しみながらも、FW、バックスが我慢強く前に出てトライを連取する。前半終盤、3点差に詰め寄られた後だった。左のラインアウト。松下がボールを投げ入れ、右オープンに展開した。

 ラックの右サイドをフランカー森山雄太がタテに突く。フォローした松下がオフロードパスをもらい、右手のハンドオフでタックラーをはじき飛ばして、そのまま20メートルを走り切った。ゴールポストどまん中にトライ。17-7で折り返した。

 明大は後半、4トライを追加した。スクラムを押した。鋭いディフェンスで筑波大に追加のトライを許さなかった。

 ◆座右の銘「日進月歩」。コツコツ成長

 松下にとって、明大といえば、FWというイメージがあった。「魂のラグビー」で鳴る福岡・筑紫高から、「メイジのFWにあこがれて」、明大に進学した。2年時の青山学院大戦で関東大学対抗戦初出場を果たし、3年時にはフッカーのレギュラーの座を確保した。真面目。地道によく練習をする。

 座右の銘が「日進月歩」。高校時代、授業で四字熟語を調べる機会があって、この熟語が自分の性格にはまったそうだ。

 「僕は結構、地味なプレーヤーですから。スター選手とは違います。自主練習とか、細かいところをコツコツやって成長できたらいいと思っています」

 誠実、律儀。記者と交わるミックスゾーンでは、ブレザーの前ボタンをきちんと留め、背筋を伸ばして応対する。

 この日の出発前ミーティングでは、「ユウヤを国立につれていく」と言い合った。ユウヤとは、怪我で戦列を離れた廣瀬雄也主将のことである。もう試合復帰は近い。

 「一緒にプレーするというのが僕たちの目標なので」

 ◆準決勝は京産大とスクラム勝負

 創部100周年の節目の年。松下は「キャプテンはすごく伝統を背負っていると思いますが、自分は正直、100周年というのはあんまり意識していません」と漏らした。

 「毎年、同じだと思います。スクラムを押す。そして、優勝を目指して頑張るだけです」

 年明け1月2日の準決勝(国立競技場)の相手は、スクラムで早大を粉砕した強力FWの京産大。見どころは、FW戦、特にスクラム勝負だろう。力と力、意地と意地、プライドとプライドが激突する。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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