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日体大ラグビー部女子スポンサー、支援理由は「ラグビーへの恩返し」

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
ラグビーを愛するファクトリーギアの髙野倉社長(4月8日・東京店)=筆者撮影

 大学のスポーツクラブの「台所事情」はどこぞも厳しい。エース松田凛日選手ら日本代表選手が多数所属する日本体育大学のラグビー部女子も同様である。だから、オフィシャルパートナーのご支援はとてもありがたい。

 例えば、有名な工具専門店『ファクトリーギア』には、2016年のパートナー制度発足時からずっと、チームをサポートしてきてもらった。素朴な疑問。なぜ、日体大ラグビー部女子を応援してくれているのか。それを知りたくて、同社の髙野倉匡人(たかのくら・まさと)代表取締役社長のご自宅を訪ねた。

 「ラグビーへの恩返しですよ」。髙野倉社長は柔和な顔を崩し、そう口にした。ラグビーと工具をこよなく愛する60歳。ラグビーの話題になれば、眼鏡の奥の目がなごむ。

 「僕はやっぱり、高校の時にラグビーに出会って、大学でも“くるみクラブ”で続け、その素晴らしさを知ったんです。僕の高校時代は寮だったんですよ。寮生活とラグビーがなければ、今日の僕がないくらいのものだったんです」

 髙野倉社長は千葉・麗澤(れいたく)高校を卒業した。ラグビーの精神性に魅せられ、現役引退後は我孫子ラグビースクールで子どもたちを指導した。「ラグビーへの恩返しが人生のテーマだった」と笑う。

 縁である。我孫子ラグビースクールの関係者からNEC(現NECグリーンロケッツ東葛)のメンバーと知り合い、その人が日体大ラグビー部女子のコーチとなった。チームの厳しい財政事情を知ることになり、会社として支援することになった。

 同社長の述懐。

 「女子ラグビーの現状を聞いて、これはどこかの企業がサポートする先鞭をつけないといけないと思ったんです。一生懸命やっている女子ラガーを応援し、少しでもいい環境を整えてくれれば、ラグビーへの恩返し、社会貢献にもなるんじゃないかと思ったんです」

 日体大のラグビー部女子はフロンティアである。1988年、日本に女子ラグビー連盟が設立されると同時に日体大ラグビー部女子も創部された。まだ、ラグビーは“男子のスポーツ”と言われていた時代。厳しい環境下、女子選手たちはひたむきにチャレンジしてきた。

 そんな苦難の時代があればこそ、女子も上昇気流に乗っている。15人制では、RWC 2017に続き、2大会連続でのRWC 2021への出場、7人制では1月のセブンズワールドシリーズNZ大会で過去最高の6位に入った。

 ところで、ラグビーの魅力は。そう聞けば、髙野倉社長はあったかいコーヒーをひと口飲み、「自分自身がラグビーから学んだことはたくさんありますよ」と話し出した。

 「一番大きなところは、個ではないところです。ラグビーは常にチームのために何ができるのか、全体のことを考えながら動いていきます。それを学んだ結果、自分が会社の経営者になれて、会社というひとつのチームをつくれているんです」

 いわば、『ワン・フォア・オール、オール・フォア・ワン』の精神か。髙野倉社長は高校時代、ラグビー部の初代主将だった。現在、社員に時々、こう言うそうだ。「僕は、ずっとキャプテンをやりたかった」と。

 「下を向いているやつがいたら、肩をたたいて、励ますんです。みんなを鼓舞しながら、最後はオールアウト(完全燃焼)する。チームのために全力を尽くしてきたキャプテンって一番カッコいいと思っていました」

 何事にも歴史と理由がある。髙野倉社長は2015年のラグビーワールドカップを現地観戦し、日本代表が南アフリカに番狂わせを演じた瞬間、涙を流した。なぜかといえば、日本代表の苦難の時代がまぶたに浮かんだからだった。

 「僕は、出来事の裏側にある時間とか人の思いとかが基調で、そこに心を動かされるのがすごくあるんです。大切なことは、その重ねられた歴史とストーリーなのです」

 モノ作りも工具もラグビーも同様だろう。厳しい時代を見てきたからこそ、髙野倉社長は日体大ラグビー部女子を応援するのだった。

 「日体大はいわば、体育の東大みたいなものでしょう。やっぱり全国のモデルになってほしいのです。女子ラグビーにしても、チームの運営の仕方にしても、女子学生ラグビーの旗手になっていただかないといけません」

 言葉に熱がこもる。

 「そう。日本女子ラグビーの旗手であり続けてほしいと思いますね」

 あぁ日体大ラグビー部女子はなんと幸せなチームなのだろう。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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