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ラグビー埼玉、無傷の11連勝。ベテラン堀江翔太「一つ一つ、やるべきことの積み重ね」

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
スタンドに手を振るHO堀江翔太。試合後、髪は束ねる(11日・秩父宮)=筆者撮影

  これぞ、ベテランの風格か。ラグビーのリーグワンで、埼玉パナソニックワイルドナイツ(埼玉=旧パナソニック)が、東京サントリーサンゴリアス(東京SG=旧サントリー)に14点差をはねのけ、41-29で逆転勝ち。主軸の37歳、フッカー堀江翔太がしなやかな動きで、チームの無傷の11連勝に貢献した。

 東日本大震災から12年を迎えた11日。1万9千人の観客で埋まった東京・秩父宮ラグビー場でも試合前、黙とうが捧げられ、犠牲者を悼んだ。堀江はしんみりした口調で漏らした。

 「もし自然災害が起きなければ、みなさん、普通に暮らしていたわけですから。亡くなった方もたくさんいて…。僕らは、ラグビーを普通にできてんのが、幸せやなと感じています」

 試合は、相手の激しいディフェンスに圧され、埼玉は前半に3-17とリードを許した。だが、ここから本来の力強さを発揮し、後半には5トライを加え、逆転した。満足した点を聞かれると、埼玉のロビー・ディーンズヘッドコーチ(HC)は「トラスト(信頼)とレジリエンス(復元力)」と言った。

 レジリエンスとは、困難をしなやかに乗り越える回復力を意味する。それを体現したのが、動きも思考もしなやかな堀江だった。ベテランフッカーは後半6分、主将の坂手淳史に代わり、グラウンドに入った。

 埼玉では、リザーブメンバーを「マッド(MAD)」と呼ぶ。狂わんばかりの激しさを持つ選手という意味だろう。即ち流れを変えるインパクトプレーヤーである。

 堀江は、「僕はマッドぽくないですけど」と笑った。「僕からしたら、もうヒヤヒヤです、リードしてから代えてくれと思うんですけど。ただ負けていても、勝っていても、(グラウンドに入る時の)気持ちは一緒です。一つ、一つ、自分たちがやるべきことをやって、最後を迎えようと考えています」

 東京SGに1トライを返された後、埼玉は4連続トライと畳みかけた。連係がよくなった。ディフェンスが激しくなり、アタックのテンポが上がった。その4本目、後半26分のトライだった。

 中盤のスクラムからの攻撃だった。堀江はラックからの右展開でボールをつないだ後、ラックの左サイドをボディーコントロール巧みにタテに突いた。そして、8フェーズ(局面)目の右オープン展開、絶妙なノールックのラストパスをウイング長田(おさだ)智希に渡し、トライを演出した。この運動量、このスキル。

 試合後の記者と交わるミックスゾーンだった。左手に弁当ボックスを持つ堀江はほのぼのとした雰囲気に包まれていた。

 あのラストパス、うまかったですね、と声を掛ければ、中学時代、バスケットボール部に所属していた堀江は「バスケやっていたから」とさらりと言ってのけた。

 「あそこはもう、長田なら、“来てくれるやろうな”という感じでした。まったく、見てないです。あれは、練習ですね」

 ノーサイド。慌てず、焦らず、いつも通りの逆転勝利。コミュニケーションをとって、それぞれが自分たちの仕事に徹すれば、結果はついてくる。

 「ま、一歩ずつ、一歩ずつ、僕らのいい風に進むだろうなっていうわけです」

 それにしても、37歳にして、動きがすこぶるいい。昨季のリーグMVPはオフに専属トレーナーとトレーニングを積んだそうで、フィジカルがさらに進化しているように見える。豊富な経験を生かすのも、要はフィジカル次第なのだろう。

 その存在感は特別だ。試合中はユニークなツインテールのドレッドヘア。なぜ、ツインテール? と聞けば、「(ラインアウトのスローイングの時)ボールが髪に当たらないように」と説明してくれた。

 さあ、秋のラグビーワールドカップ(W杯)まで半年を切った。日本代表として出場すれば4度目となるW杯の話題を振れば、「まあ、まあ」と苦笑しながら言葉を濁した。まずは、リーグに全力投球。

 「ポテンシャル(潜在能力)を出していきたい。(W杯では)決勝まで行きたいなって。自分で努力しながら、日本代表にコミットできればいいのかなと思っています」

 いつものごとく、ベテランの言葉には険しさはない。これまた、一つずつ、一歩ずつ。ラグビーにおける今の自分の仕事に最善を尽くすのだった。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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