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夢膨らむ「世界がまだ見ぬボールパーク」エスコンフィールドお披露目「わくわくを超越」

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
”世界初の球場内の温泉・サウナからはフィールドが一望できる(7日)=筆者撮影

 いわば夢の結晶である。みんなが笑顔になる地域活性化のコンテンツが北海道の北広島市についに完成した。プロ野球の北海道日本ハムファイターズの新たな本拠地球場となる「エスコンフィールドHOKKAIDO」。このほどメディア向け内覧会が開かれ、キャッチコピーの「世界がまだ見ぬボールパーク」の全容が明らかになった。”初もの”に驚き、感動の連続だった。

 「ここが世界一」。日本ハムの新庄剛志監督がそう漏らしたのもうなずける。総工費は約600億円。収容人数が約3万5000人。日本初の開閉式屋根付きの天然芝球場である。

 何といっても、まず外観が美しい。山の形をした切妻型の三角屋根をモチーフとしており、バックスクリーンの後ろは太陽の光が入るよう全面ガラス張りとなっている。観客席からグラウンドが比較的近い。新球場の案内スタッフ曰く。「選手ファースト、観客ファーストです。多様、かつ快適な設備、施設、環境がそろっています」と。

 筆者は世界各地のいろんなスタジアムを見てきたけれど、こんなワクワクする球場は初めてだった。奇想天外。例えば、レフト後方にそびえる「tower 11(タワー・イレブン)」だ。名前は、かつて日本ハムに在籍したWBC日本代表の大谷翔平、ダルビッシュ有の日ハム時代の背番号に由来している。壁面には、ウォールアートとして、ふたりの大きな肖像画が描かれている。

 エレベーターでタワー3階にのぼると、世界初の球場内の温泉・サウナがあった。「あ~、極楽、極楽」。天然温泉につかりながら、フィールドを一望できるのだった。

 この温泉はスタジアムの地下を1300メートルの深さまで掘削してやっと湧き出したもの。500メートル、1000メートルではダメ、1200メートルでもダメだった。この夢プロジェクトのメンバーの熱情がうかがえる。湯質は、トロトロの茶褐色。湯に手を突っ込めば、あったかい。41度。ガイドに聞けば、「この温泉に入ると雪肌のようにすべすべした肌になります」と説明してくれた。

 同じフロアのサウナにも入ってみる。室温60度。すぐ服が汗ばんでくる。よく見れば、室内の壁や手すりがアオダモのバット仕様で作られている。一事が万事。インテリアのいたるところにベースボールテイストが施されている。

 上の4階、5階は、ホテルとなっている。客室は12室。一番いい部屋(1泊15万円とか)が、バルコニーからフィールドを見渡せる「ダルビッシュ&大谷スイートルーム」である。ベッドの枕の上部の壁には、ふたりの選手のサイン付きの日ハム時代のユニフォームが飾ってある。

 広さは44平方メートル。セミダブルベッド2つとソファーベッド。最大5人宿泊可。こんなデラックス部屋で野球を生観戦して眠れば、大谷やダルビッシュと対戦する夢を見るかも。

 そういえば、ホテルの廊下にはバッターボックスやダイヤモンドの白いラインが描かれている。野球好きにはたまらない。細部にわたり心憎い設計となっているのだった。

 このほか、世界初のフィールドを一望できるルーフトップバーがあり、クラフトビール醸造所も備わっている。エスコンフィールドでしか味わえない3種の限定ビールを楽しめるそうだ。野球と言えば、ビールとホットドッグか。

 1~3階の各フロアには和・洋・中合わせて38の飲食テナントがずらりと並ぶ。肝は、これらの出店やグッズストア、売り子による販売はすべてキャッシュレス決済ということか。筆者は、球場オリジナルのアツアツたこ焼きをほおばり、出来立ての冷たいクラフトビールを味わった。気分はサイコー! 

 チームのためには、ゴージャスな監督室、ロッカールームがある。円形のロッカールームは直径約20メートル、面積約316平方メートルの国内最大の広さを誇る。ここは、ファンも試合のない日のスタジアムツアーでのぞくことができる。

 また、富裕層相手のダイヤモンドクラブラウンジやバルコニースイートもある。どこもスポンサーが付く。当然、ビジネス面の戦略もうかがえる。兎に角、百聞は一見にしかず、である。自分で夢空間を見てもらうしかあるまい。

 大事な視点が、このエスコンフィールドを核とした「北海道ボールパークFビレッジ」が、北広島市の地域活性化にどう活かされるのかだろう。札幌市と新千歳空港の間の丘陵地帯の人口約5万8000人の札幌市のベッドタウン。市名はかつて、広島県からの移住者によって開拓されたことに由来する。

 メディア内覧会の日、日本ハムファイターズの本拠地誘致を成功に導いた北広島市の川村裕樹・企画財政部長兼ボールパーク推進室長にスタジアム完成の心境を聞けば、「率直に言って、もう言葉がないです」と感慨深そうだった。

 「私は、ワクワクという感覚を超越していました。設計段階、建設段階から、現場を何度も見ていましたけれど、最終形を見た時、いい意味で絶句ですね。“やった”とか、感激とかの上をいく、もう言葉が出ないくらい感動しました」

 エスコンフィールドの正式開場は30日のプロ野球のシーズン開幕戦となる。その日が、「ボールパークを活かすまちづくり」の本格スタートとなる。次の世代にまちを引き継ぐ、いわば玉手箱。3年後、5年後、北広島市がどう変わるのか。まちの未来に夢が膨らむのだった。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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