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BL東京の大型ロック、20歳のワーナー・ディアンズが90メートル激走トライ「めちゃ遠かった」

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
90メートル激走のトライを挙げたBL東京のディアンズ=25日・江戸川陸上競技場(写真:つのだよしお/アフロ)

 寒風を突く、激走だった。日本ラグビー界の期待の大型ロック、東芝ブレイブルーパス東京(BL東京)のワーナー・ディアンズが、90メートルの独走トライで気を吐いた。実直な20歳。「めちゃ遠かったです。トライまで」と、苦笑しながら吐息をついた。

 25日の東京・江戸川陸上競技場。リーグワンのBL東京は、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(東京ベイ)に27-46で敗れた。だが、終了直前、身長201センチ、体重117キロのディアンズが意地を見せた。自陣ゴール前でフッカー橋本大吾からパスをもらうと、カーリーヘアーのロックは右ライン際を疾走した。

 ボールを右手で抱え、大きなストライドでぐいぐい走る。フォロワーを探すこともせず、ガムシャラに。ライン際のベンチに下がっていたリーチマイケルの目前も駆け抜けた。懸命にバッキングアップする元日本代表主将、東京ベイのCTB立川理道も振り切り、インゴールにどんと倒れこんだ。今季、初トライ。

 ディアンズは苦しそうに左腕で顔を覆い、しばらく立ち上がれなかった。「疲れすぎて」と述懐する。朴とつとした口調で続ける。

 「ずっとタックルされると思って。そんなに走りたくなかった。トライした瞬間? 何も考えてなかったです。息ができなかった」

 このタフネスぶりには驚かされる。激しいフィジカルバトルで体力を削られたノーサイド寸前、これほどのスプリント力を発揮できるとは。

 でも、試合は完敗だった。これでチームは4勝5敗の勝ち点21。リーグ後半戦、前週の横浜キヤノンイーグルスに次ぐ連敗。プレーオフ進出(上位4チーム)をめざすBL東京にとっては痛恨の敗戦。

 ディアンズは「痛いですね」と漏らした。「先週も今週も、すごく大事な試合だった。たぶん、これでプレーオフに入るためには難しくなった」

 チームとしては、ミスが多過ぎた。相手の激しいディフェンスにハンドリングが乱れた。ブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)で後手に回り、相手を勢いに乗せてしまった。

 「ラインアウトはうまくいったところもあったけど、うまくいかないところもあった。それを修正しないといけない。自分がもっと、考えないといけない」

 ラインアウトではノットストレートの反則もとられた。「最近、判定、ちょっと厳しいですね」と二度、繰り返した。

 ディアンズはニュージーランド出身。4歳でラグビーを始め、14歳の時、NECグリーンロケッツのS&Cコーチとなった父と一緒に来日した。中学時代はバックスの選手だった。千葉・流経大柏高を経て、高校卒業後、東芝(現BL東京)に入った。長身と真面目な性格でめきめき成長を遂げ、2021年11月の日本代表のポルトガル戦において19歳で初キャップを獲得した。

 流ちょうな日本語を話す。書道も得意で、高校時代、「書の甲子園」と称される国際大会で秀作賞をとったこともある。試合後のミックスゾーン。一番好きな漢字ひと文字を聞けば、ディアンズは「守」と即答した。守備の守、ディフェンスを意味する、“守る”である。

 「ディフェンス、結構、好きなんです。守る、です。ボールキャリーより、タックルの方が好き。昔からです」

 夢は、ワールドカップ(W杯)出場。今秋のW杯フランス大会の開幕まであと半年。「まだまだ遠いです」と漏らした。

 「まだ、リーグ戦が半分超えたぐらいです。夏には(日本代表の)合宿がいっぱいある。ちっちゃい時からワールドカップに出たい夢ありますけど、あまり考えたくない。プレッシャーになってくるから」

 だから、今はリーグワンに集中する。過日、日本代表首脳陣とのミーティングでは、スタッツのデータや映像を見ながら、課題を提示されたそうだ。課題とは?

 「フィジカルのところだったり、走っている時のスピードだったり、ボールを持っていない時の動きだったり…。倒れた時の立ち上がりもそうだし、ボールをもらえるよう早くセットすることも、です」

 繰り返すけれど、まだ20歳。可能性は無限大だろう。「自分の中の自信が成長している」と胸を張る。ライバルは、自分自身。己に克つのだ。

 「今のパフォーマンスがワールドカップにつながると思うから、1試合、1試合、東芝(BL東京)の試合に集中します」

 ターゲットがプレーオフ進出。確かに進出は厳しい状況になったけれど、まだノーチャンスではない。最後にこう、言い切った。

 「全然、あきらめない」

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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