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ラグビー・スピアーズが7勝目。ホープ根塚洸雅「ファンの笑顔を見たいから、強気のプレーで勝つ!」

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
攻守に強気のプレーを見せたスピアーズのWTB根塚洸雅=19日・江戸川区陸上競技場(写真:つのだよしお/アフロ)

 自分がラグビーを楽しみ、ファンにも喜んでもらう。それが、クボタスピアーズ船橋・東京ベイの成長株、WTB根塚洸雅(こうが)の流儀である。昨季のリーグワン新人賞の24歳は強気のプレーで勝利に貢献。「やっぱり、ファンに背中を押されているなと思います」と感謝した。

 「ファンの笑顔を見たいので、やっぱり勝ちたいなと思うんです。僕たちにとって、“エドリク”は絶対に負けられない場所なんです」

 エドリクとは、東京・江戸川区陸上競技場のことを指す。スピアーズの本拠地だ。19日。春を思わせるポカポカ陽気の中、スタンドは3534人のラグビーファンで埋まった。大半が、スピアーズを応援する光沢のだいだい色のジャージを着た「オレンジアーミー(軍団)」。

 スピアーズは攻守でアグレッシブなプレーを重ね、今季勢いに乗る三菱重工相模原ダイナボアーズに60-22で圧勝した。これで今季7勝目(1分け)。その激しさは、表彰式のプレゼンター役を務めた江戸川区出身の大相撲の人気力士、翔猿関をも驚かせた。感想を聞けば、「オモシロいですね」と漏らし、こう続けた。

 「ラグビーは横からも後ろからも、いろんなところから攻められて怖いですよ。相撲は正面からだけですから。でも、ラグビーは見えないところからもぶつかってくるから、メチャ怖いです」

 その怖さを払しょくし、相手に挑みかかる気概にあふれていたのが、根塚である。キックオフ直前。チームの円陣が解けると、いつも通り、黒色ヘッドキャップをかぶったWTBはぴょんと思い切りジャンプした。なぜ?

 「ルーティン(ワーク)じゃないですけど、全身を使ってハイジャンプすることで、リラックスすることができるんです。気持ちもリフレッシュ、からだ全体の筋肉も使うので」

 法大からスピアーズ入りした根塚は昨年6月、ウルグアイ代表戦で日本代表に初選出された。身長173センチ、体重82キロと小柄ながらも、強じんな足腰と粘り強さ、運動量で存在感を示す。今季は、開幕から8戦連続でWTBとしてフル出場してきた。5トライを記録。

 この日のチームのテーマが「バック・トゥ・ザ・ベーシック」、そう、基本に戻ろう、だった。根塚は、チーム好調の理由を「一人ひとりが自分の役割をやりきっているところだと思います」という。「僕も、アタックで、モメンタム(勢い)というか、ボールを前に運ぶというところでチームにいい影響を与えられているのかなと思います」

 あえて勝負のアヤを探せば、後半開始直後のダイナボアーズ選手のシンビン(10分間の一時的退場)だっただろう。このシーン、根塚が鋭利するどいランで前に持ち出したところ、相手WTBのタウモハパイホネティのハイタックルを浴びたものだった。偶発的だったとはいえ、そのランに勢いがあったからだった。

 その後、数的優位に立ったスピアーズは10分間で4連続トライと畳みかけ、勝敗の帰趨を決めた。根塚の言葉に充実感がにじむ。

 「アタックも、ディフェンスも、やっぱり攻めている分、いい結果につながっています。ハードワークもできましたし、しつこく前に出られたので、本当によかったのかなと思います」

 逆サイドの23歳WTB、木田晴斗が2トライと気を吐いた。この日ノートライの根塚は「こっちも負けていられない」とライバル心をのぞかせながらも、「そりゃ、どんどんアグレッシブにトライを取りにいこうと思っています。でも、自分がトライを取ることより、チームとして勝つ方が大事なので」と言うのだった。

 根塚のワークレートは高い。スポーツテレビ局「J SPORTS」のこの試合の個人スタッツによると、ボールを持って前に走った距離「ゲインメーター」は木田の47メートルに対し、根塚はチーム断トツの108メートルだった。

 根塚の目標は当然ながら、今秋のラグビーワールドカップ(W杯)フランス大会出場である。「そこは絶対、出たいなという気持ちはあります」と言い切る。「ただ」と言葉を足した。

 「そこだけをフォーカスすると、毎週の試合がおろそかになるので、僕としては、その週、その週の試合で、自分のやれることをやって成長していくことの方が大事かなと思います。毎週の試合で成長し、自分がレベルアップできれば、おのずと、ワールドカップに近づいていけると思います」

 課題は、ディフェンス力とハイボールの処理、キック処理のフィールディングか。日々の鍛錬と強気の挑戦の積み重ねが、W杯のステージへとつながっていくのだろう。ファンの熱い応援を背に。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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