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不祥事から3カ月。なぜ公表が遅れたのかーラグビー日野RDが無期限活動自粛

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
オンライン会見で謝罪する日野RDの志賀得一部長(左)と田中勝利GM(筆者撮影)

 つらい判断である。ラグビーのリーグワン2部の日野レッドドルフィンズ(RD)は、不祥事の責任をとり、チームの活動を無期限で停止すると発表した。こういった時、よく考える。いったい、スポーツのクラブとは誰のものだろうか、と。

 ラグビー部員による酒席トラブルが起きたのは、チームが大分県別府市で強化合宿をしていた最中の昨年10月31日深夜だった。リーグワンに事案を報告したのが、その時から約3カ月が過ぎた今年の1月28日。一部週刊誌の報道で騒ぎが大きくなり、チームがHPで事件を公表したのは2月2日だった。

 その翌日3日、日野RDの謝罪会見がオンラインであった。志賀得一部長によると、選手23人、スタッフ1人の計24人が飲食店に入り、酔っぱらって服を脱いだり、女性店員にセクハラ行為をしたり、店の物品を破損したりした。また、選手がリーグワンの他チームの名前をかたる行為も行ったという。

 ああ情けない。ラガーマンの誇りはないのか。チーム愛も、ラグビーへのリスペクトも。ひと言でいえば、ラグビーを裏切ったのだ。

 一番の疑問はなぜ、リーグへの連絡や公表がこうも遅れたのか。隠蔽しようとしたのではないか。不適切な行為を行った7選手のうち、「半分の選手」(田中勝利ゼネラルマネジャー)は今季のリーグワンの試合に出場していた。

 筆者は会見で聞いた。「なぜ、公表がこうも遅れたのでしょうか」と。志賀部長は「飲食店側との守秘義務」ゆえとし、こう説明した。

 「まず、事件が起きてから、先方様とお詫びをかねて、しっかり話をさせていただきました。その中で、先方様と守秘義務というものをかわし、その関係もあって、即、公表にいたらなかったという風に理解しています」

 何の守秘義務なのか。

 「先方様に物品をこわすという行為をしましたので、最終的には示談という形にさせていただきました。その中のひとつの項目で、お互い守秘義務を設けて、話を進めようという事になったのです」

 示談書を作成したのは日野RDである。つまり、日野RDから守秘義務の設定を提示したことになる。

 3カ月前の事件後の対応については、志賀部長はこう、説明した。

 「合宿終了後、東京に戻ってから、チーム全員を集めて、チームスタッフの方から、今回起こした行為については、社会的にいえば、大変大きな問題である。ラグビー部の存続に関わる問題であるという事を少し強めにラグビー部員に伝えたという状況です」

 日野RD事業グループは、日野自動車の直轄組織に位置する。志賀部長は「その(意思決定)ラインへの報告は行っていた」と言うが、それ以外の本社内の共有はどうだったのか。トラブル発覚後、4日の清水建設江東ブルーシャークス(清水)戦には出場する予定だったが、試合前日に急きょ、出場辞退としたのは、おそらく本社上層部の判断だったのだろう。

 志賀部長はこう言って、何度も頭を下げた。

 「(4日の)試合相手の清水、ファンの皆様、関係の皆様に多大なるご迷惑をおかけし、誠に申し訳ありません」

 また、遅ればせながらの会見実施の理由についてはこう、言葉を足した。

 「今回の報道を受けて、世の中での状況が非常に大変なことになっている、みなさまにご迷惑、ご心配をおかけしている状況を重く受け止め、先方様と確認できた点をご説明させていただくということです」

 今回の問題はもちろん、トラブルを起こした部員たちの規範欠如、コンプライアンス欠如、インテグリティ違反によるが、組織としての対応も杜撰だった。判断を誤った。SNSが発達している現状の認識に欠ける。この類のバッド・ニュースはすみやかに公表するのが筋であろう。

 確かに日野RDは今回の不祥事でラグビーの、そしてリーグワンの価値を毀損した。今後、リーグによる処罰が検討されることになるが、今季の出場はもう、厳しいとみる。最悪の場合、リーグ登録資格はく奪、永久にリーグに参加できなくなる可能性もある。

 だが、誤解を恐れずにいえば、「連帯責任」には反対である。チームとしての監督責任はともかく、トラブルを起こさなかった罪なき部員たちのラグビーをする権利は守ってやるべきだろう。

 そもそも、スポーツのクラブとは何より、その時のチームの部員のものである。チームスタッフ、地域のファンのものである。日野自動車のためではなく、これまで努力してきた選手や裏方のスタッフたち、応援してきたファン、特に日野市の人たちのためにどう対処すべきなのか。

 ここは、リーグの残り試合に欠場せざるをえなくなっても、クラブの廃部は避け、リーグワンの一つ下のリーグ3部からのチーム再建を図るしかあるまい。まずは部員たちの意識改革、規律向上、加えて、清掃活動などの地域貢献活動を通し、地元ファンの信頼回復から始めなければいけない。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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