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ラグビー東京SGの成長株、SH齋藤直人の決意「強く思い続けたい」

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
大声でチームを鼓舞する東京SGのSH齋藤直人=29日・秩父宮ラグビー場(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 しぶとく、するどく、ひたむきに。ラグビーのリーグワンの東京サントリーサンゴリアス(東京SG)の共同キャプテン、SH齋藤直人がいぶし銀のタックルを放ち、テンポよくボールを動かす。ワールドカップ(W杯)フランス大会(9月開幕)を目指す25歳が、チーム伝統のアタッキング・ラグビーを勢いづかせた。

 29日、快晴下の東京・秩父宮ラグビー場。東京SGは、東芝ブレイブルーパス東京(BL東京)に勝って勢いに乗る三菱重工相模原ダイナボアーズ(相模原)に51-13で快勝した。開幕戦に苦杯を喫した後、第2節から5連勝。

 あえて勝負のアヤを探せば、前半30分過ぎの東京SGゴール前の攻防だった。スコアは3-3。東京SGのピンチだ。ゴールライン手前5メートル地点の相模原ボールの左隅のスクラムだった。

 相模原ナンバー8の195センチ、112キロ、ジャクソン・ヘモポがスクラムの右サイドにボールを持ち出す。突進しようとした。刹那、165センチ、73キロの齋藤がヘモポの背後から絶妙のタイミングで両足首に飛びついた。両手を絞り込み、倒した。ナイス・タックル!

 「あそこはインパクトを残す瞬間だなと思いました」と、齋藤は満足げな表情で振り返った。「結構、代表に行って、ブラウニーから、学んだことです。試合中にインパクトを残す場面が必ずあると。今日は、試合中、あそこだな、とちょっと思いました」

 ブラウニーとは、日本代表のトニー・ブラウンコーチの愛称である。齋藤は向上心の塊である。しかも、素直。日本代表の合宿でも、東京SGの練習でも、日々精進する。同じ東京SGの先輩SH、2019年W杯日本代表の流大の存在からもまた、良き刺激を受けてきた。

 「実は」と、齋藤は言葉を足した。

 「(スクラムを組む前)AR(アシスタントレフェリー=タッチジャッジ)と話をして、オフサイドにならない範囲はどこか、どこまで行っていいのか、確認していたんです。(スクラムの)ボールインの前から、いい準備をして、相手にプレッシャーをかけられました」

 つまるところ、狙って決めたタックルだったわけだ。その後、厳しいディフェンスで相手ノックオンを誘い、ゴール前のマイボールのスクラムから反撃。右サイドに一度回し後、逆の左サイドに展開。齋藤がCTB中村亮土にロングパスをつなぎ、中村が絶妙なキックパスを左オープンに。

 これをウイングのテビタ・リーが好捕して、鋭利するどいランで、相模原のインゴールまで約60メートルを走り切った。トライ。よくみれば、齋藤が最後まで、きっちりサポートしていた。このハードワークも東京SGの持ち味か。

 この日の試合、齋藤はテンポを意識していたという。チャンスとみれば、リスクを背負ってでも、素早く回す。25歳SHは言った。

 「(試合の)入りから集中して、我慢強く守り切って、少しずつ得点できた。テンポという意味では、自分的には結構、よかったんじゃないかなと思います」

 記者と交わるミックスゾーン。齋藤の両耳は赤くはれていた。そのことを口にすると、「先週の試合(花園近鉄ライナーズ戦)で右耳の鼓膜が破れました」と小声で打ち明けた。これも、タックルでからだを張っている証左だろう。

 はたから見たら、その成長は順風満帆に映る。早大では1年生から活躍し、4年生では主将として大学日本一の座に就いた。東京SG、3年目。出場機会を増やし、今季はリーグワンにおいて6戦すべてで、先発SHで出場してきた。プレーにおける鋭さ、判断力が増した。

 しかも、元日本代表SHの田中澄憲新監督から共同キャプテンに指名された。齋藤は「このチームでキャプテンは誰もができることではない。うれしさはあります」と言葉に実感をこめる。

 「(シーズン)最初の方は結構、いろいろ考えていたんですけど、今はもう、ありのままの自分を出そうとしています。言葉だったり、行動だったり。(目標は)まずリーグ優勝ですけど、ハングリーさなど、サンゴリアス(東京SG)がこだわらないといけないところは、絶対、ぶれてはいけないと思っています」

 リーグワンの後にはW杯が待っている。齋藤には忘れられない一日がある。2019年8月29日、前回2019年W杯日本大会の日本代表メンバーが発表された日のことである。W杯代表に手が届く位置にいるように見えながら、齋藤本人としては確信が持てなかった。

 「あの瞬間を結構おぼえていて、本気で(W杯を)目指していなかった自分がいたんです。それが、悔しかった」

 だから、「今年は」と語気を強め、こう続けた。

 「強く思い続けたい。ワールドカップに出ることを。強く、絶対、少しも妥協したくない」

 もちろん、目の前のリーグワンでも毎試合、全力を尽くす。まずは、次節のBL東京戦(2月5日・秩父宮)。東京SGでも、日本代表でも。齋藤のまっすぐな挑戦は続く。もう後悔はしたくない、絶対に。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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