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ラグビーのBL東京が大勝。リーチ・マイケル「一番は、ファンに楽しんでもらうこと」

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
いつも全力プレーのBL東京のリーチ・マイケル(22日・秩父宮)=撮影・齋藤龍太郎

 ラグビーのリーグワンは22日に行われ、東京・秩父宮ラグビー場では、東芝ブレイブルーパス東京(BL東京=旧東芝)がトヨタヴェルブリッツ(トヨタ=旧トヨタ自動車)から8トライを奪って、63-25で圧勝し、3勝2敗とした。人気者のリーチ・マイケルは、ファンに喜んでもらうため、全力プレーとあったかコーヒーなどでラグビー観戦の魅力アップをめざす。

 BL東京・ナンバー8のリーチは肋骨の痛みを押して、奮闘した。前節の敗戦から、チームとしては、セットプレー(スクラム、ラインアウト)とブレイクダウンが改善された。接点ではフィジカルバトルで優位に立ち、二人目、三人目の寄りでも圧倒した。

 「ちょっと予想外」と、34歳のリーチは大勝に意外そうな表情をつくった。「先週の反省はブレイクダウン周りや、オフロードパスのミスだった。そのあたりを修正した。今日のチームの出来はよかったと思います」

 加えて、ディシプリン(規律)だ。先週の試合では12個を数えたPKの反則が、この日は7個に減った。レフェリーを、ワールドカップ(W杯)の主審を務めたオーストラリア・ラグビー協会のニック・ベリーさんが務めたこともあり、試合の流れはスムーズだった。リーチの述懐。「本当にレフェリーがいたのかというくらいだった」

 1週前の試合で小競り合いからシンビン(10分間の出場停止)となったリーチだが、この日は我慢強く、プレーした。もともと規律ある選手だ。トッド・ブラックアダーヘッドコーチも「リーチは公平でクリーンな選手です」と言った。「今日もハードワークをしてくれました。肋骨が痛い中、チームのためにプレーしたのは、彼の人間性をよく表しています。いいパフォーマンスを見せてくれました」

 もっとも、リーチ本人は「この2試合、パフォーマンスはあまりよくなかった」と不満を口にし、「もっと、どんどんレベルを上げていきたい」と語気を強めた。

 「今日は、帰って、反省したい。2試合後、サントリー(東京サントリーサンゴリアス=東京SG)が待っています。そこにピークになるよう準備していきたい」

 この日はBL東京のホームゲームだった。ラグビー観戦の魅力をアップするため、様々な演出が取り入れられている。例えば、独自の音響システムを使った『リアル・グラウンド・サウンドシステム』。ピッチの周囲に集音マイク、客席の前方にスピーカーをそれぞれ数台設置し、プレー中の音を増幅させて観客席に響かせる。選手のぶつかる音、掛け声がファンにまで届き、臨場感が増す演出なのだ。

 この日の観客は4843人。ファンからは総じて、好評のようだ。リーチは「一番は、ファンに楽しんでもらうこと」と喜び、冗談口調で言葉を足した。「プレー中、変な事、言わないよう気を付けないといけません」

 また、試合前、ラグビー場外の黒色のキッチンカーにはファンの長蛇の列ができていた。コーヒー好きのリーチが、三菱地所のサポートを受け、プロデュースする『リーチマイケル・コーヒースタンド』である。

 リーチといえば、かつて府中市の東芝グラウンド近くに自分のカフェを経営していたコーヒー通。こうも、言っていた。「コーヒーは人と人をつなげる最高のコミュニケ―ションツール」と。買って飲んでみれば、コーヒーは程よい渋味で、味わい深いものだった。

 スタッフによると、コーヒーは日に150杯ほど、売れるそうだ。人気があることを伝えれば、リーチはあごひげを蓄えた顔を崩した。

 「自宅のコーヒーマシンだし、とてもうれしいです」

 寒い中、程よい苦みのホットコーヒーを飲みながら、臨場感に浸って、いぶし銀のリーチのプレーを堪能する。それって、ライブ観戦のいわば、新たな価値創出、楽しみ方かもしれない。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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