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ラグビーのワイルドナイツのめざす地域活性化―強豪レッズとの激闘に熊谷が沸く

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
ファンに手を振るワイルドナイツの選手たち(4日・熊谷ラグビー場)=筆者撮影

 スポーツは地域を活性化する。ラグビーのリーグワン初代王者、埼玉パナソニックワイルドナイツ(埼玉ワイルドナイツ)が本拠・熊谷で、世界最高峰のスーパーラグビーの強豪クイーンズランドレッズと激突、30-55で敗れた。両チームの選手は試合後、ナイト照明のもと、ピッチの周りをぐるりと歩き、スタンドに手を振った。ワイルドナイツの堀江翔太ゲーム主将は、ファンに感謝した。

 「ファンの盛り上がりを非常に感じました。盛り上がってくれるとうれしいし、タックルや得点を決めるとバーッと喜んでくれるのは向こうへのプレッシャーになったと思う。非常によかったです」

 4日夜の熊谷スポーツ文化公園ラグビー場(熊谷ラグビー場)。「グローバルラグビーフェスタ2022」と銘打った国際親善試合には、気温13度の寒さの中、約6千5百人のファンがスタンドに詰めかけた。その声援を受け、ワイルドナイツの選手たちはからだを張った。とくに今秋の日本代表の活動参加を見送っている堀江は攻守に大活躍、若手のSO山沢京平、WTB竹山晃暉も躍動した。

 ワイルドナイツのチャンスの度、スタンドから拍手がどっと沸き起こる。レッズのフィジカルの強さに押されながらも、後半には4トライ(相手は2トライ)を挙げて追い上げた。試合後の記者会見。リーグワンの初代MVPの36歳、堀江ゲーム主将は笑顔で言葉に充実感を漂わせた。「がんばりました」と。

 昨年夏に群馬県太田市から埼玉県熊谷市に本拠地を移したワイルドナイツにとって、飯島均ゼネラルマネジャー(GM)の言葉を借りると、「画期的な試合」だった。コストや収益分配などの契約が外国チームと対等だったからで、同GMは「地域のコミュニティーの軸になろうという価値観のもと、フェアな契約にしたいというのがあったのです」と説明した。

 この類の国際試合や国際リーグへの加入の場合、コストや入場料、放送権料収入の分配など、得てしてアンフェアな契約になりがちである。かつてスーパーラグビーに入っていた日本のサンウルブズがそうだった。その際、契約マターで苦労した元サンウルブズCEOだったワイルドナイツの渡瀬裕司・戦略推進ディレクターもまた、この試合の意義を強調する。

 ワイルドナイツとレッズは2020年にパートナーシップ協定を締結した。今後は開催場所を日本と豪州1年ごと交互にする計画で、両チームのマーケティングにおいて中長期的な発展、収益を促すことになっている。渡瀬さん曰く。「互いにリスペクトし、将来に向けて、セイム・ピクチャー(同じ構想)を描くことがラグビー界の発展につながるのです」と。

 ついでにいえば、レッズの本拠地クイーンズランド州は埼玉県と姉妹提携を結んでいて、1991年には、豪州代表の主力メンバーで固めたクイーンズランド州選抜として来日、改築前の熊谷ラグビー場のこけら落としとして、埼玉県選抜と対戦(〇41-6)した。その時、飯島GMもフランカーとして出場していた。「感慨深いものがあります」と漏らすのだった。

 それにしても、ワイルドナイツの活動は、リーグワンのミッションのひとつである「地元の結束、一体感の醸成」の実践にみえる。地域活性化、ラグビーの事業化、運営のプロ化である。飯島GMは「発信力あるチームが求心力になって」と前置きし、言葉を続ける。

 「この地域の発展ということを共通目標に連合体でやっていく。ローカルなコミュニティーを中心とし、グローバル化を図っていくのです。これ、スタジアムが中心で、チームが強くないとうまく回っていかないでしょ」

 この『ラグビーパーク』のアイコンとなるスタジアムが、2019年ラグビーワールドカップの会場となった球技専用の熊谷ラグビー場である。ラグビー場に隣接したエリア『さくらオーバルフォート』には、チームのクラブハウスほか、ホテル、室内練習場、リハビリ&クリニックの医療施設、カフェ、シェアサイクル専門店などが建てられ、「スポーツをする・観る・泊まる・食べる」といった活動を応援する。その経営の多くは別資本の企業、団体の連合体だ。

 また、スポーツチームと企業、行政が一体となってラグビーパークを運営していくことになる。キーワードが「5S」という。勝利、サービス、集客、収入、収益と5つの頭のアルファベットのSを指す。飯島GMは「このスパイラルをくるくる回していく」とし、少し笑った。「まだ1回転か、2回転しかしていないですが。気運は少しずつ大きくなってきています」

 それにしても豊かな発想力と行動力のかたまり、飯島GMのフロンティア精神は衰えを知らない。話が弾む。「相変わらずですね」と声を掛ければ、58歳は真顔で言った。「クビになるまで突っ走りますよ」

 めざすは、夢あふれるラグビーパーク。どうしてもワクワクするじゃないの。「野武士軍団」の異名をとるワイルドナイツのトライは、スポーツを軸とした壮大な街づくりへの挑戦なのである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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