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躍進の女子ラグビー15人制日本代表がNZへ出発。スクラムは「ワン・アニマル」、サイのごとく。

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
アイルランドに快勝した女子日本代表の強固なスクラム(8月27日・秩父宮)(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 上昇気流に乗る女子ラグビーの15人制日本代表「サクラフィフティーン」が15日、ニュージーランド(NZ)に向け、出発した。24日に強豪のNZ代表に初挑戦した後、10月8日開幕のワールドカップ(W杯)に臨む。男子と同じく、躍進の原動力のひとつが、8人で組むスクラムの進化だろう。

 出発直前のオンライン会見。珍しく、そのスクラム談義に花が咲いた。スクラムの要、プロップの南早紀主将(横川武蔵野)は「海外の強豪相手に対して押されないスクラムが組めるのかなと思っています」と自信を膨らませた。

 「海外の相手はからだが大きく重いので、自分たちはひとつになって、“ワン・アニマル”というキーワードで、互いの隙間をなくして、スクエアで密な状態でスクラムを組めるようにやってきました」

 前回の2017年W杯アイルランド大会では、日本代表は参加12チーム中11位に終わった。スクラム、接点でもやられた。だが、レスリー・マッケンジーヘッドコーチが就任した19年以降、強化ポイントのひとつにスクラムをおき、レベルアップを図ってきた。その成果だろう、先日のアイルランド戦ではスクラムで優位に立ち、初めて勝利(29-10)をもぎとった。

 前回W杯の悔しさを知る南主将は、この5年間を振り返った。合宿では毎朝、スクラムに特化した練習に励んできた。

 「前回のワールドカップまでのスクラムに対しては、ひたすら本数を組んで経験値を上げていくやり方でした。今回は、本数を組むことはもちろんですけど、詳細の部分だったり、クオリティーだったりを意識してやってきました。スクラムの基礎となるコアの部分だったり、フットポジションだったり、ひざの角度だったり…。自分でもスクラムが強くなったかなという実感はあります」

 まさに“スクラムの神は細部に宿る”である。男子の日本代表も、構えから、8人の足の位置、ひざの角度、肩と肩を組み合わせるバインディングの強度、相手との間合い、低さ、押す方向などディテールを決め事として積み上げ、パワーアップしてきた。

 イングランド・プレミアリーグのクラブに挑戦したプロップ加藤幸子(横川武蔵野)はオンライン会見で、南主将の話をうなずきながら聞いていた。「最終的には」と言って、こう言葉をつづけた。

 「8人がひとつになって組めるようなスクラムを練習してきました。そして低さにフォーカスしていかないと、日本人は(体重が)軽いのでやられてしまう。まずは低い姿勢で勝負するということです。これまでは自分ばかりにフォーカスしていたんですけど、ロック、バックロー(フランカー、ナンバー8)とのコネクションも意識しています」

 つまりは、「8人一体」である。まさにワン・アニマル、ひとつの動物と化すのだった。フロントロー陣(プロップ、フッカー)とバックローの間に入るロックの玉井希絵(三重パ―ルズ)は「とくに意識しているのはロング・スパイン」と言った。スパインとは、強じんな背筋、背骨といった意味か。

 「背骨を長く、長く、使うということです。横から見た時に、長さが長いスクラムを目指しています。それを引き出すのは、ロック(の背の)長さがカギになってくると思っています。こう窮屈な姿勢で押すというより、しっかり背筋を伸ばして押すんです。それが、最近のテストマッチ(国別対抗戦)でのスクラムのフォーカスポイントです」

 スクラムの話は奥が深い。キーワードの「ワン・アニマル」、具体的にはどんな動物ですか、と問うてみた。

 玉井は笑って、「サイのようなイメージかなと思います」と応えてくれた。

 「後ろにまったく一歩も足を下げない。あとは、ツノをしっかりとプロップのおしりに突き刺して、押し続けます」

 ワン・アニマル。サイのごとく。願わくは、サクラフィフティーンよ、まずはNZ代表相手にスクラムで鋭いプッシュを。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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