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アイルランド代表を撃破したラグビー女子日本代表が”聖地”でNZ代表に初挑戦

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
女子日本代表がNZと対戦するイーデンパークの熱狂。写真は2011年W杯決勝戦(写真:Action Images/アフロ)

 これも女子ラグビーにとっては歴史的快挙か。欧州の強豪、アイルランド代表(世界ランキング6位)を撃破した15人制日本代表「サクラフィフティーン」が、ニュージーランド(NZ)代表(同2位)に初めて挑戦することになった。舞台は、あのNZラグビーの“聖地”、オークランドのイーデンパークである。

 NZで開催されるワールドカップ(W杯)=10月8日開幕=に先立ち、このテストマッチは9月24日に実施される。しかも、男子ラグビーのブレディスローカップ、NZ代表「オールブラックス」対オーストラリア代表「ワラビーズ」の前座として行われる。ということは、収容5万人のスタンドはほぼ満員となるだろう。ワクワクするではないか。

 29日開かれた女子日本代表の記者会見。当然、そのNZ戦の話題でもちきりだった。アイルランド戦で2トライと活躍したフルバック(FB)の松田凛日(りんか)は、「そこまで有名なスタジアムでプレーしたことはないので、すごく緊張しています」と顔をこわばらせた。客は多い方が燃えるのかと思いきや、20歳は小声で言った。正直だ。

 「実は私は、お客さんが少ない方がプレーはしやすいんですけど…。多ければ多いほど、どんどん緊張してしまうので…。でも、自分にとっては、それもすごくいい経験になるのかと思っています」

 松田凛日の父は、ラグビーW杯に4大会も出場した松田努さん。同じFB。大舞台を何度も経験し、大選手に成長していった。凛日が活躍したアイルランド戦の観客は女子ラグビーとしては異例の4569人が入った。スタンドの雰囲気を聞かれると、20歳は述懐した。

 「(ディフェンス網を)抜けた時の歓声のあがり具合は、今まで感じたことがないものだったので、とてもうれしかったです」

 女子日本代表のレスリー・マッケンジーヘッドコーチ(HC)はカナダ出身だが、来日する前はNZのクラブチームでコーチをしていた。3年前の就任会見の際、「日本代表はニュージーランドみたいに戦えるようになりますか?」と聞かれると、「そんなことはないでしょう」と応えた。こう、説明する。

 「ニュージーランドのようなゲームをジャパンの選手にさせようとは思っていません。ジャパンらしくプレーしてもらいたい。人々にジャパンのように戦いたいと思ってもらい、選手たちにはジャパンらしく戦ってほしいのです」

 レスリーHCは、NZとのテストマッチを「ジャパンが進歩した証」と位置付ける。日本代表が強くなって認知度も上がったからこそ、今回の招待試合が実現したのだろう。同HCは続けた。

 「ワールドカップの初戦に向け、より深く学び、チームとして成長する非常に大きな機会となります」

 会見の壇上では、レスリーHCの隣にプロップ南早紀主将が座っていた。NZ戦について、主将は「ワールドカップの初戦のカナダ戦より、大きなプレッシャーがかかるんじゃないでしょうか」と言い、前向きにとらえる。

 「ワールドカップ前に大きなプレッシャーの舞台に立つことができるのは、チームにとって貴重な経験になるし、大きな前進にもなるととらえています」

 どこで勝負するのか。

 「相手がどういうチームであれ、まずは自分たちがどういうラグビーをしたいのか、どういう風に強みを出していくのかにフォーカスしていきたい」

 そういえば、ラグビー専門誌の『ラグビー・マガジン』の今月号(10月号)の表紙を飾ったのは、ボールを抱えて突進する南主将である。ラグマガは1972年創刊。605冊目にして、女子選手がひとりで表紙を飾るのは初めてのこと。これまた歴史的快挙なのである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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