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最年長の中村知春コーチ兼選手「ラグビーが好き」―女子7人制日本代表候補発表

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
ラグビーW杯に向け日本代表候補発表。意気込む中村知春(右から2人目)=筆者撮影

 躍進のラグビー7人制の日本代表「サクラセブンズ」の精神的支柱である。チーム最年長の34歳、コーチ兼任の中村知春選手(ナナイロプリズム福岡/電通東日本)。“がんばるモチベーション”を聞かれると、照れ笑いを浮かべ、「ラグビーが好き、なんですよね」と漏らした。

 「自分でも不思議だなと思いますけども。ラグビーで、やっぱり世界と戦うことの楽しさというか、アスリートでいられる幸せというものを感じることができるのが、世界の舞台だと思います。ラグビーが好きという気持ちに、(私は)引っ張られているのかなと思います」

 25日、東京・明治記念館で開かれた7人制ワールドカップ(W杯)南アフリカ大会(9月9日開幕)に向けた日本代表候補発表の記者会見だった。選手たちが壇上に並ぶ。白色のワイシャツ、黒色のスーツ姿。中村の顔には充実感がただよっていた。

 中村はW杯に出場すれば、歴代最多の53キャップ(日本代表の大会出場数)目となる。大学までバスケットボールに打ち込み、2010年、ラグビーに転向した。2011年から10年余。かつては主将を務め、サクラセブンズを引っ張ってきた。髪を金色に染めて金メダルを目指したリオデジャネイロ五輪は10位に終わって泣き、昨年の東京五輪では最後に選から漏れ、悔し涙を流した。

 でも、ラグビーへの情熱は衰えなかった。むしろ熱量は増した。先のワールドシリーズへの昇格大会「チャレンジャーシリーズ・チリ大会」では、いぶし銀のプレーで優勝に貢献した。凱旋会見では、「世界は甘くない」と言った。世界の強豪には、何度も「ぼこぼこにされてきた」からだった。

 「選手として、また、ワールドカップの舞台に立てるという事は、自分自身でも期待していなかったことでもあります。(東京)オリンピックに出られなかったことで、またこの国際舞台に戻ってこられているなという気持ちです」

 負けじ魂のかたまりなのだ。東京五輪落選が闘争心に火をつけた。だから、今も試合でからだを張り続ける。全身を貫く活力、走り続けるタフネス、タックルでの献身力。ラグビーとは最後は人間力がものをいうスポーツなので、中村のような選手はチームにはありがたい。

 ”今を生きる”、そう中村は口にする。

 「未来はわからないですけども、目の前、目の前の試合を、1個1個、戦っていくことの大事さを、若い選手たちに伝えていければいいなと思います」

 日本代表の鈴木貴士ヘッドコーチはこう、中村をリスペクトする。

 「経験が豊富なので、若い選手に伝えていく部分でも、非常に助かっています。一番、いろんなことを体験して、サクラセブンズを知っている選手ですから。彼女のひとことは、若い選手たちに響くものがあるんじゃないかと思っています」

 もちろん、中村はコーチ兼任とはいえ、フィールドにいる時はプレーに集中する。W杯の抱負を問われれば、「我慢強く、忍耐強く(戦う)」と繰り返した。

 「フォワードとして、セットプレーの安定をキーワードにしたい。格上のチームと戦う際には、勢いと我慢強さが大事になります」

 会見で、「一番若い中村さんへ」と質問されると、「まだ18歳なんですけども」とジョークで返した。どっと笑いが起きた。

 「経験を積むことで見えてくるものもあります。このチームで、この雰囲気なら、こうなりそうだなってだいたいわかります。今までは、世界への扉がやっと開いて、世界にチャレンジして、ぼこぼこに打ちのめされてというのを、繰り返してきました」

 経験は宝である。泣いて、笑って、泣いて…。中村は言葉に力をこめた。

 「今回は私自身、3回目、4回目の正直だと思うんです」

 チームの戦い方のコンセプトは「立つ・動く・戦う」。合言葉が、「リンクアップ」である。リンクは、つながる。アップは、お互いが目を合わせて前を見るという意である。中村も、ただ前を向く。セブンズにおける集大成の充実は続く。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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