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欧州王者・フランス代表戦で分かる日本代表の“現在地”~至福の「ライブビューイング」

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
引き分けた2017年の日本代表×フランス戦のラインアウト。左端が真壁伸弥さん(写真:ロイター/アフロ)

 ラグビーの日本代表が今年、来年のワールドカップ(W杯)開催地で、欧州6カ国対抗戦全勝優勝のフランス代表に3回、挑む。7月にはその欧州王者が来日し、2日(豊田スタジアム)、9日(国立競技場)に日本代表と対戦する。2日の第1戦では、新たなスポーツ観戦スタイルとして、「ホスピタリティ・ライブビューイング」が開かれることになった。

 これは、総合印刷大手の凸版印刷が企画。広場や競技場などに大型スクリーンを設置し、大勢でスポーツ・ライブ観戦を楽しむ「パブリックビューイング」の豪華版、ゲストの解説や飲食も楽しめる。ゲスト役の元日本代表ロックの真壁伸弥さんは「自分が思っていることをリアルタイムでファンに言えるのは楽しい」と声を弾ませる。

 「選手目線を忘れないようにしています。細かいところ、例えば、ラインアウトひとつとっても、選手の目の動きだったり、からだの向きだったり、選手経験者だからこそ、大事にしてきたことをしゃべるようにしています」

 ラグビーファンにとっては、夢のようなビッグマッチである。これも日本代表の躍進があればこそだろう。2015年W杯イングランド大会で強豪の南アフリカから大金星を奪い、先の19年W杯日本大会では初のベスト8進出を果たした。

 真壁さんは、その南アフリカ戦で奮闘し、劇的な逆転勝利に貢献した。過去最後のフランス代表との試合(2017年11月26日・仏ナンテール)でもロックとして先発出場し、引き分け(23-23)に持ち込んだ。言語明瞭、感覚の言語化に長ける35歳は言う。

 「日本は選手もファンも、南アに勝って、メンタルが変わったんです。そして19年のワールドカップで自信が芽生えました。フランスはヨーロッパの王者といっても、真夏の気候はすごく日本に有利です。そのアドバンテージを最大限に生かせば、決して勝てない相手ではありません」

 来年のW杯フランス大会で前回以上の成績を目指す日本代表にとっては、“現在地”を知る大事な試合になる。日本がどんなメンバー編成で、どういった戦略を立て、どう戦うのか。フランス代表の来日メンバーはまだ分からないが、フランスというチームはどんな選手でも戦力はそう変わらない。

 フランスといえば、「シャンパン・ラグビー」の異名を持つ。その青いジャージから「レ・ブルー」と呼ばれてラグビーファンに親しまれ、ここぞという時には、シャンパンの栓を抜いたかのごとく、フレア(ひらめき)を織り交ぜながら、青いジャージが一斉に動き出す。

 シャンパンを飲みながらシャンパン・ラグビーを見るって最高ですよね、と冗談口調で聞けば、国際的なワイン関係の資格を持つ真壁さんは「でもシャンパンってパァーと派手に開けたらマナー違反ですよ」と真顔で言った。

 「フランスはスイッチが入った瞬間、全員でトライを取りにいくんです。決まり事ではなく、ひとりひとりの判断を大事にしながら。トリッキーなことも起きます。バックスだけではなく、突然、FWがボールを蹴ったりもする。全員のギアが一段上がるんです」

 だから、見ていて面白い。フランスは以前ほど、スクラムに固執しなくなった。が、安定したスクラム、ラインアウトを土台として、多彩なパス回しを仕掛けていく。チーム力の向上は、とくにディフェンス、ラインアウトの整備によるものが大きい。

 真壁さんは、勝負のポイントとしてラインアウトを取り上げ、「精度という部分で、おおざっぱではなくなったんです」と指摘し、「それぞれのウエイトの掛け方、動き、連係プレーの精度が非常に高くなっています」と説明する。

 では、日本はどう戦えばいいのか。個人の力量は新リーグのリーグワンの激戦を通し、間違いなく高くなっているだろう。真壁さんはフランスと引き分けた2017年の経験でいえば、「スクラム、ラインアウトのセットピースやモールでしっかり戦えたのが一番大きかった」と振り返る。

 「だから、今回も日本はそこに注力すべきです。その上で、9番(スクラムハーフ=SH)、10番(スタンドオフ=SO)のゲームメイクがすごく気になります。そのポジションに誰が入るのかもですが、セットピースの強い相手には、戦い方ってすごく重要なのです。どんな戦略を持って、どう遂行していくのか」

 SHでいえば、真壁さんが所属していた東京サントリーサンゴリアス(旧サントリー)の流大、齋藤直人ら、SOなら埼玉パナソニックワイルドナイツ(旧パナソニック)の山沢拓也ら、楽しみな選手が並んでいる。

 試合メンバーや展開を想像するだけで、もうワクワクしてくる。最後、真壁さんは言葉に力を込めた。

 「マジで勝てるんじゃないかと思っています」

 なお、日本代表は11月、欧州遠征を行ない、敵地でフランス代表と対戦することも決まった。

 <ホスピタリティ・ライブビューイング情報は https://toppan-sports.jp/ >

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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