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トンガのために。釜石GM「ラグビーの助け合い精神」

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
チャリティーTシャツを販売する釜石シーウェイブスの桜庭吉彦GM(右)=筆者撮影

 日本ラグビーにおいて、トンガとの交流は、長くて、深い。今回のトンガの海底火山の大規模噴火に際し、被害を受けた同国への支援の輪がひろがっている。ラグビーリーグワンの試合会場では、寒空の下、チーム関係者が赤色のチャリティーTシャツを販売したり、募金を呼び掛けたりした。

 23日の東京・秩父宮ラグビー場。ディビジョン2の日野レッドドルフィンズ対釜石シーウェイブス。釜石のチームカラーはトンガと同じ赤色。これまでトンガ出身の選手が何人も在籍していたこともあるし、現スタッフのマヘ・トゥビさんはトンガ出身である。

 東日本大震災の被災地である岩手県釜石市を本拠とする釜石シーウェイブスは、その震災の際、トンガから支援を受けたこともある。そこで、釜石はラグビー場に特別ブースを設置し、トンガ国旗と赤地に白で「PRAY FOR  TONGA」と書かれたチャリティーTシャツ(3千円)を販売した。準備した200枚が約1時間で完売。経費以外はトンガへの義援金として送られることになる。

 募金箱も設置し、釜石シーウェイブスの桜庭吉彦ゼネラルマネジャー(GM)らが支援を呼びかけた。

 桜庭GMは「困った人に手を差し伸べる、これがラグビー精神だと思います」と言った。

 「このラグビーの助け合いの精神と言うのは、我々も東日本大震災の時にたくさん感じました。また僕らのチームにはトンガ出身のマヘもいますから」

 55歳の桜庭GMは往年の日本代表の名ロックでもある。多くのトンガ出身の選手と一緒に日本のために戦ったこともある。

 「トンガ出身の素晴らしい選手がたくさんいました。彼らの母国が困っているのを知ると、何か少しでもいいのでお役に立ちたいと思うのです」

 募金箱には次々と千円札が入れられていた。その様子を見ながら、桜庭GMはしみじみと漏らした。

 「トンガへの共感をお持ちの方がこんなにたくさんいらっしゃるとは…。うれしいですね」

 試合前の募金活動中、41歳のマヘさんがブースにやってきた。故郷トンガで暮らす家族の安否を案じていたところ、22日朝、ようやく携帯電話で兄との連絡がとれたそうだ。家族は無事だった。

 マヘさんは「ホッとしています」と安どの表情を浮かべた。

 「たくさんの人が、トンガのために応援してくれています。うれしいですね。トンガの復興のためには大きな力となります」

 また、釜石シーウェイブスの選手たちは試合前のウォームアップでは、チーム一丸となっての支援を行う意思表示として、赤色の「PRAY FOR  TONGA  Tシャツ」を着用した。釜石は日野レッドドルフィンズに17-56で敗れたが、釜石のSH南篤志ゲームキャプテンはこう、言葉に実感をこめた。

 「トンガの方々に勇気を与えるようなプレーをしたかった。僕らが頑張れば、トンガへの支援もついてくると思います。トンガのためにも頑張りたい」

 ラグビーに限らないだろうが、スポーツを通した「連帯」の強さを感じる。ラグビー仲間はみな、ファミリーなのである。犠牲者のご冥福と、一日も早いトンガの日常生活の回復を祈るばかりである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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