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打倒!スコットランドへ結束 プロップ稲垣啓太「ポイントは判断」

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
スコットランド戦に向けたオンライン会見の日本代表・稲垣啓太=18日(筆者撮影)

 欧州遠征中のラグビー日本代表は20日、敵地・エディンバラでスコットランド代表と遠征最終戦を行う。遠征初戦に大敗したアイルランド代表と同じレベルの強豪。プロップ稲垣啓太(埼玉パナソニックワイルドナイツ)は、ディシプリン(規律)を課題に挙げた上で、「(勝負のポイントは)必要な判断を、その瞬間、瞬間に下せるかどうかです」といつも通りの静かな口調で話した。

 18日、スコットランド戦に向けた現地からのオンライン会見だった。試合ではリザーブとなるが、31歳は「スタートだろうが、ベンチだろうが、やることは変わりません」と言い切った。

 「しっかり自分のやるべきことにフォーカスしたいですね。パフォーマンスをどれだけあげられるか。それがチームに反映されれば、結果(勝利)が近づいてくるでしょう」

 苦戦続きの日本代表は、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ(HC)も選手たちもペナルティの多さを反省している。公式記録(日本協会)を見ると、確かに先のポルトガル戦(〇38-25)では相手の9個に対し、日本は15個の反則を記録しているが、アイルランド戦での反則数はともに「13」と変わらなかった。

 むしろ、フォーカスすべきは、ボール所持率(日本37%、アイルランド63%)、地域支配率(日本32%、アイルランド68%)の劣勢だろう(スタッツはオータム・ネーションズシリーズHPから)。

 いまのラグビーは、レフリングの厳格化もあって、接点の攻防が激しくなればなるほど、ペナルティをとられてしまうリスクが高くなる。だから、ボールを持っていないと不利になる。つまり、ボールを持って攻め続ければ、相手のペナルティをもらいやすくなる。ディフェンスが続けば、その逆となる。もちろん、選手の意識、サポートプレーのはやさは大事だが。

 日本代表は相対的な実戦不足ゆえ、FWのコンタクトエリアの強度、レフリングへの対応は落ちている。でも、そこを気にしても仕方ない。稲垣もペナルティを警戒するあまり、消極的になることを恐れる。

 「反則数が多いので、どうしてもディシプリンにフォーカスせざるをえない状況です。ただ、そこにフォーカスしすぎてプレーが消極的になったり、ふだんやるべきことをやらずに変に委縮してしまったりすることがあってはいけないと思うんです」

 そこで、判断である。正しく、はやい判断である。そうやってチームとしてどうコネクトできるか、だろう。

 加えて、試合のカギを握るのが、スクラム、ラインアウトのセットプレーである。アイルランド戦のスクラムは悪くはなかった。日本は相手ボールのスクラムを押して、1つ、コラプシング(故意に崩す行為)の反則をもぎとった。右プロップの具智元(コベルコ神戸スティーラーズ)の負傷もあって、フロントローの先発メンバーは変われど、日本のスクラムはFW8人の組織として組むものだから、スコットランドにもそう、ヒケをとらないのではないか。稲垣は「基本的にはやろうとしていることは変わらない」と言う。

 「(ポイントは)やろうとしていることのクオリティを上げられるかどうか。時間帯、場所、シチュエーションによって、ゲームシナリオ通りのスクラムを組めるかどうか。そこが、スコットランド戦のキーじゃないでしょうか」

 つまり、ここぞという時、安定したスクラムを組めるのか。プッシュできるのか、ペナルティを奪えるのか、である。スクラムの優劣を知りたいのなら、とくにFW同士の組み込む際のヒット勝負に注目してほしい。

 日本代表の実戦不足、チームとしての共有時間の相対的な短さは言い訳にはできまい。2019年のラグビーワールドカップ(W杯)で勝ったスコットランドである。さぞ向こうはホームでリベンジに燃えていることだろう。

 正直、勝利は難儀だろうが、その下馬評を覆すためには、何より相手に挑みかかる気概、結束、コネクトである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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