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「26歳」と笑う40歳のトモさん、日本ラグビー現役復帰の3つの理由

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
NTTコミュニケーションズ入りが決まったトンプソン=2019年W杯、南ア戦(写真:アフロ)

 トモさんが日本ラグビーに帰ってくる。13日、NTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安(浦安)が、元日本代表(71キャップ)のトンプソン・ルークの加入を電撃発表した。うれしいじゃないの。

 40歳はチームの青色のジャージを着て、オンラインでニュージーランドから登場。日本語でこう、話した。懐かしい大阪弁のイントネーションで。

 「にじゅう、ろくさい、です。ポジション、ロックです。いま、ニュージーランドやけど、日本帰ります。すごく楽しみです」

 なぜ、26歳なのか。たまたまだろうが、トンプソンが日本代表に初めて選ばれたのが2007年、26歳の時だった。

 その後、ラグビーワールドカップは2007年、2011年、2015年、2019年と日本代表最多4大会に出場した。桜のエンブレムのため、からだを張った。相手に挑みかかる気概、労を惜しまぬハードワークは、見る者の胸を熱くした。だが、2019年シーズン限りで引退し、故郷に戻り、牧場を経営していた。

 素朴な疑問。なぜ、現役に戻ったのか。なぜ、日本に戻るのか。そう聞けば、「ごめんね。英語でいいですか? 日本語、忘れちゃった」と少し笑って、英語で続けた。

 「難しくもあり、簡単な決断でした。家族を含め、日本が恋しかった。ラグビーをすることが恋しかったのです。ラグビーならではの友情とか、達成感とかを味わいたくて、また日本でラグビーをすることにしました」

 ふたつ目の復帰理由は、浦安がオファーを出し、条件が合致したことである。契約はとりあえず、1シーズン。金額はナイショ。

 なぜ、これまでプレーしてきた近鉄ではなく、浦安だったのか。もちろん浦安からの復帰オファーが出たことはある。縁だ。トンプソンは「すごくワクワクしました」と言った。

 「ラグビーの強化の面でも、チームの地域交流などの活動面でも、自分の価値観にすごく合っていたからです。このチームでやりたいなという気持ちが強くなったからです」

 3つ目の復帰理由は、ひざの怪我などでボロボロだったからだが治ったからである。まだ100%には戻ってはいないが、トンプソンは「メンタルとフィジカルの部分は長い休養期間でかなりリフレッシュできました」と説明した。

 「いまは、シーズンに向けてからだを仕上げていっているところです。こちらで試合は何試合かしました。からだが完全にラグビーを思い出すまでは時間がもう少しかかるかもしれないけれど、これは自転車に乗るようなもの、からだが乗り方を覚えているので、一度思い出せば大丈夫です」

 どんなプレーをしたいのか。

 「自分が今までやってきたことと同じです。決して派手じゃないけど、チームのため、しっかりとプレーすることを心掛けたい。若手にも手本を見せていけるような存在になれたらいいなと思います」

 そういえば、記者会見では、特別参加の“子ども記者”からも質問が出た。「強くなるために食べているものはなんですか?」と。トンプソンはやさしく答えた。

 「ジャスト・バランスです。ジャンクフードや、チョコレート、アイスクリームを食べ過ぎないことです。栄養価の高い食べ物をバランスよく摂ることにしています」

 確かに年齢からくる体力の衰えはあるだろう。けがの心配もある。だが、トンプソンには「日本」と「ラグビー」への渇望がある。

 最後に。

 やはり聞いた。「日本代表への復帰は?」と。トモさんは笑った。

 「まだジェイミー(ジョセフ日本代表HC)のセレクションに入る入らないの話じゃない。まずはシャイニングアークス(浦安)で自分ができる限りのプレーをしようと思います」

 40歳。自身の境遇に最善を尽くす人生。再び、タフガイのトモさんのチャレンジがはじまる。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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