時代の象徴、大坂なおみが聖火台に希望の炎を点火~東京五輪開会式
最後は時代の象徴、テニスの大坂なおみ選手だった。異例づくめの東京オリンピックが23日夜、史上初の無観客の開会式で静かに開幕した。間延びした演出と国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長の大演説などが続いたが、国立競技場内での聖火リレーで大いに盛り上がった。
午後8時、待ちに待った開会式がスタート。場外の抗議デモのシュプレヒコールが国立競技場の記者席まで聞こえていた。「オリンピック、反対!」「オリンピック、中止!」。1988年のソウル五輪からすべての夏季五輪を現地取材してきた経験で、これほど祝祭感のない大会は初めてである。
新型コロナウイルス禍のため、1年延期となった東京五輪だった。IOCや政府の「開催ありき」で準備されてきた。緊急事態宣言下の東京での開催となった。ほとんど無観客となったが、1964年以来、57年ぶりの東京五輪である。
開会式では規模縮小の各国選手団の入場などにつづき、新型コロナ禍のため、公道中止がつづいてきた聖火リレーが、国立競技場に何とか到達した。場内の途中では、プロ野球のレジェンド、85歳の長嶋茂雄さんが、元メジャーリーガーの松井秀喜さんに支えられ、ソフトバンク球団会長の“世界の王”こと、王貞治さんとともに引き継いだ。
わが憧れの長嶋さんは2004年、アテネ五輪直前に脳梗塞で倒れ、五輪での野球日本代表の指揮は断念せざるをえなかった。日本中のリハビリと闘う多くの人々を励まそうと、自身もリハビリと真摯に向き合ってきた。ゆっくり、ゆっくり、懸命に歩く白マスク姿の長嶋さんに、つい涙が出そうになった。
そういえば、長嶋さんも松井さんも王さんも国民栄誉賞を受賞している。聖火リレーを務めるには最適の人選だっただろう。
最後は予想通り、大坂選手だった。予想通りというのは、この日の昼間、スポーツ新聞のWEB記事で「最終点火者は大坂選手か」と報じられていたからだった。じつは同選手の試合日程が、24日から25日に急きょ変更になっていた。米AP通信でも、「五輪開会式に出演する予定があるため」と伝えていた。
開会式のメインステージは、「富士山」と「太陽」を表現したデザインだった。そして開会式のテーマが「United by Emotion」、“心でつながる”だった。
聖火の最終ランナーの大役は、23歳、テニスの大坂選手が務めた。父はハイチ系アメリカ人、母が日本人。多様性の象徴といってもいい。男女平等を訴える意味で、女性ということもいい。大会組織委員会の橋本聖子会長の強い推しだとみられている。
優勝した昨年9月の全米オープンでは、人種差別に抗議する「BLM(Black Lives Matter. 黒人の命は大切だ)」に同調し、マスクを通じてBLM運動を支援する意思表示をして、話題を集めた。
最近は全仏オープンの記者会見を拒否し、記者会見の在り方を世に問うた。「うつに苦しんでいた」ことも明かし、ウィンブルドン選手権は欠場していた。だが、夢舞台と口にしていた東京五輪は出場に踏み切った。
その大坂選手の強い意志と行動力が、新型コロナ禍に負けない、あるいは東日本大震災の苦難を乗り越え前に進もう、というメッセージだったのではないだろうか。
大坂選手は聖火を片手に舞台にのぼり、階段をゆっくりと上がった。球体が花のように開く。そこに聖火をともした。2021年7月23日午後11時45分。おおきく燃え上がる聖火台の前に立つ大坂選手。その笑顔は太陽のようだった。
大坂選手はツイッターにこう、投稿した。
<間違いなく、自分の人生の中で、アスリートとして、最高の栄誉だ>
いろんな不祥事、トラブルが続いてきた東京五輪だが、これぞ、希望の火である。さあ、前に進もう。