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予定通りか延期か? どうなる、東京五輪

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
五輪マークと、新型コロナウイルス予防のマスク姿の人々。(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルスの感染拡大で、東京オリンピック・パラリンピックの開催延期の可能性が出てきた。国際オリンピック委員会(IOC)や東京オリンピック・パラリンピック組織委員会は予定通りの開催を強調するが、12日のロイター電によると、米トランプ大統領は、「観客を入れずに開催するより、1年間の延期を検討すべきだと思う」との考えを示した。 

 米国の五輪に対する影響力は大きい。まず最大規模の選手団を五輪に派遣する。そして、米テレビ局NBCの放映権パワーである。IOCの2013~16年の収入は約57億ドル(約6000億円)で、その7割強が放映権料となっている。

 うちアメリカの放映権を持つNBCの親会社、ケーブルテレビ最大手コムキャストは、2014年ソチ五輪から20年東京五輪までの冬夏4回分の放映権料として、43億8000万ドル(約4600億円)でIOCと契約している。単純計算すると、1大会の放映権は約11億ドル(約1200億円)となる。つまり、NBC側の意向が反映しやすい構図となっている。

 加えて、IOCがワールドワイドで販売するオリンピックのスポンサー「TOPパートナー」をみると、現在、契約14社のうち、米国に本社を構える会社がコカ・コーラなど7社を占めている。

 ついでにいえば、政治とスポーツは別と言いながら、やはり無縁ではなかろう。夏季五輪の開催は必ず、4年に一度、米国の大統領選の年にある。米大統領が選挙を意識し、五輪開催に影響を及ぼすことがある。

 オリンピック・ムーブメントの理念をひと言でいえば、「国際平和の建設に寄与すること」である。つまりは平和運動。その運動期間が4年単位で「オリンピアード」と呼ばれ、1896年にアテネで開催された第1回オリンピアード競技大会(夏季五輪)から順に連続して番号が付けられており、第32次オリンピアードがことし1月1日に始まった。

 オリンピック大会は平和運動の象徴として、世界のアスリートが一堂に集い、力と技を競う場となっている。だから、IOCが国際平和を標榜する以上、どんなことがあっても中止することはあってはならない。また平和の祭典として、無観客開催もそぐわない。

 ただ、近代五輪は1896年以降、3度(1916年ベルリン、1940年東京、1944年ロンドン)、戦争の影響で中止されている。延期の前例はない。

 IOCの憲法ともいわれる五輪憲章には、第5章「オリンピック競技大会」に「オリンピアード競技大会はオリンピアードの最初の年に開催され、オリンピック冬季競技大会はその3年目に開催される」と定められている。東京五輪は今年、開催する決まりなのだ。

 ただ、IOCと東京五輪・パラリンピック組織委は参加選手たちの「安全」を確保する責任を負う。当然、IOCは世界保健機関(WHO)と連絡を取り合っているだろう。ここにきての、WHOの「パンデミック(世界的な流行)」認定で延期を検討せざるをえない状況となった。

 確かに延期となれば、大会運営の計画見直し、組織委のチケット対応、追加出費、損失などが発生することになる。保険もあろうが、収支悪化や準備、運営の混乱は必至だ。既に五輪代表となった選手たちも気の毒だ。

 だが、参加国・地域が選手団の派遣を取りやめたり、参加選手に”もしか”のことがあったりすれば、東京オリンピック、IOCのイメージは悪化する。新型コロナが終息していない場合に開催すれば、感染拡大のリスクを増やすことにもなる。

 予定では、東京オリンピックが7月24日から8月9日まで、東京パラリンピックは8月25日から9月6日までとなっている。NBCなどの意向を受け、米国の4大スポーツ(大リーグ、NBA、NFL、NHL)のシーズンや欧州のサッカーシーズンを外すとなると、短期の延期はありえない。

 延期するとなると、1年、2年単位となる。現実的なのは、サッカーのワールドカップ(カタール・11月21~12月18日)はあるけれど、2年後の2022年夏だろうか。オリンピック大会は、1992年からの第25次オリンピアードまで夏冬が同一年に開催されてきた。特例ながら、2022年、冬が北京冬季五輪・パラリンピック、夏は東京五輪・パラリンピックとなれば、日中を軸としたアジアから、平和を世界に発信することになる。

 最後に大会開催の変更はだれが、いつ決めるのか。五輪憲章には「オリンピック競技大会の開催日程はIOC理事会が定める」とある。最終的にはトーマス・バッハIOC会長か。同会長は「WHOの助言に従う」とコメントしている。

 東京オリンピック・パラリンピックの開催はどうなるのか。何といっても、選手たちが一番、不安だろう。もし延期が行われるのであれば、選手たちのことを考えると、早めの決定がいいのではないか。

 あるいは予定通りの大会開催にこだわるのであれば、組織委、東京都は選手や観客の「安全・安心」を確保するための準備をどう進めていくのか。今月下旬の組織委理事会でも対応が検討されることになる。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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