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”ワンチーム”は一日にして成らずー流行語大賞

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
流行語大賞ともなった「ONE TEAM」を創り上げたラグビー日本代表(写真:ロイター/アフロ)

 『ONE TEAM(ワンチーム)』って何だろう。先のラグビーワールドカップ(W杯)でベスト8に進出した日本代表のチームスローガン。その言葉が、「2019ユーキャン新語・流行語大賞」の年間大賞に選ばれた。

 2日、日中の南国宮崎は最高気温18度というポカポカ陽気で、パナソニック・ワイルドナイツとして合宿中の日本代表プロップの稲垣啓太選手(パナソニック)は紺色の半袖姿でホテルのロビーに現れた。メディアの囲み取材で、ワンチームが流行語大賞に選ばれたことを聞くと、「うれしいですね」と感想を漏らした。

 「今まで4年間、みんなでつくりあげてきたチームカルチャー、文化というものが、ラグビー界だけじゃなく、全国のみなさんに認知されたことがうれしいですね」

 稲垣選手はラグビーW杯の活躍で「笑わない男」として、一躍人気者になった。知性があふれ、語りは理路整然、かつ明快。「笑わない男」も新語・流行語の候補に挙がっていたが、「あれはダメです」とぴしゃり。

 候補に入ったことはどうですか、と聞かれると、少し顔をゆがめた。「それは事故ですよ、事故」と言って、メディアを爆笑させた。

 ワンチームとは何も言葉だけではなく、稲垣選手が強調するように、その過程や精神がより大事なのだろう。いわば、仏作って魂入れず、ではいけないのだ。海外出身選手も多かった日本代表は地獄のようなハードワーク(猛練習)と日本の文化や歴史の勉強を通し、ほんもののワンチームになった。

 稲垣選手は言葉を足す。

 「ワンチームってよく言われますが、僕らは4年間をかけて、チームとしての文化を作り上げてきたわけです。その文化がワンチームなんです。ワンチームというフレーズをここまで創り上げてくるのには、非常にいろんな苦労があったなあ、って改めて感じますね」

 もちろん、ワンチームが流行語大賞に選ばれたのは、日本代表の活躍があり、ラグビーW杯の盛り上がりがあったからである。この盛り上がりを持続させていく使命をラグビー選手は感じているようだ。とくに日本代表選手は。稲垣選手は表情を引き締めた。

 「このラグビーの認知度が一過性で終わらないよう、このワンチームという部分をさらにレベルアップできるようにまた取り組んでいかないといけないんじゃないかと。より一層のプレッシャーや期待がかかってくると思うので、そのプレッシャーを受け入れて準備を進めていきたいですね」

 稲垣選手同様、日本代表フッカーの堀江翔太選手(パナソニック)も、大賞受賞に「えー、すごい」と驚いた。「非常にありがたいし、誇りに思います」。笑顔に喜びがひろがる。

 「ラグビーをやっている人たちはみ~んな、ワンチームという言葉は使ってきたと思います。ラグビーが注目されて、流行語大賞をとるのは非常にうれしいことだと思いますね」

 これでワンチームという言葉がラグビー界以外でも浸透していくことになる。そうなると、堀江選手は「逆にワンチームって使えなくなるのかな」とメディアを笑わせた。「なんか、使いにくくないですか。流行りにのっている感じで」

 堀江選手もワンチームとなる過程の大事さを強調する。

 「ワンチームが(社会に)浸透していくのはうれしいですけど、どういう風にワンチームにするかというのが大事でしょう。中身の部分をしっかり考えて使ってもらったほうがいいのかな、とは思います」。

 堀江選手もこれまでのハードワークを思い出したのだろう、言葉に実感を込める。

 「僕らはワンチームというキーワードを出していましたが、ワンチームという言葉だけでワンチームになることは絶対、ないと思います」

 いわばワンチームの要諦は、チーム文化、ふだんの鍛錬にあるということだろう。ワンチームは一朝一夕にはなれない。“ローマは一日にして成らず”である。ふたりの日本代表の言葉から、4年間の苦労と重圧が想像できた。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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