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ファンと共に新時代にトライ!ーNTTコム・山田章仁の挑戦

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
山田章仁のNTTコム入団会見(千葉・浦安市):撮影・筆者

 浦安が沸いた。ポカポカ陽気の日曜日の7日だった。ピンクの桜は満開で、NTTコミュニケーションズの本拠、千葉・浦安市の「アークス浦安パーク」の緑の芝生のグラウンドでは地元の子どもたちの掛け声が飛び交っていた。そのクラブハウスでは、ラグビー日本代表候補の山田章仁の入団会見が開かれた。生来のチャレンジャー、陽気な33歳は明るく言い放った。

 「もう楽しみしかないですね」

 会見はユニークだった。グラウンドでは「浦安市民タグラグビー祭」が盛り上がっていた。会見場には、パイプ椅子に座った約50人のメディアのほか、約40人の地元ラグビースクールの子どもたちが体育座りしていた。窓には市民たちがずらりとへばり付いている。少し変わった熱気が流れていた。

 昨季のシーズン終了後、山田は9季所属したパナソニックからNTTコムへの移籍を決断した。年俸などの条件のほか、施設の充実、国際空港に近い立地、チーム理念などに納得したからだろう。NTTコムは昨季、過去最高タイのトップリーグ5位と上昇傾向にある。

 「みんなと一緒に大きな目標をつくり上げて、それに向かって切磋琢磨できることを楽しみにしています」

 新チームでの抱負を聞かれると、まっさらな青色のNTTコムのジャージを着た山田は言葉に力を込めた。

 「シンプルにトライをとること。加えて、周りとしっかりとコミュニケーションをとって、試合にのぞみたい。さらに広げて、ファンのみなさん、集まってくれたメディアのみなさん、みんなでコミュニケーションをとって、ひとつでもいいニュースを全世界に届けることができるよう、そんなシーズンを送りたいですね」

 具体的な目標をストレートに聞けば、「もちろん、優勝です」と返ってきた。

 秋のラグビーワールドカップは?

 「優勝にしておきましょうか。ははは。どっちも優勝でお願いします」

 それにしても、山田はチャレンジングな人生を歩んでいる。アメリカンフットボールにも挑戦したことがある。新たなことにも挑戦し、常に最善を尽くしてきた。

 なぜ。

 「新しいことというか、ちょっとみんなが大変そうだなと思うことを、ずっとやっていきたいなという人間ですから。常に自分が成長できるためには何が必要か考えながらやってきました。そういう思いが今回の移籍も後押ししたんじゃないでしょうか」

 プロ選手の山田をみると、いつもファンとの交流を考えさせられる。ファンをできるだけ楽しませ、ラグビーの魅力をより味わってもらいたいのだろう。いわばプロ意識か。「優勝よりも大切なものも発信していきたい」とも口にした。

 トップリーグではプロ契約選手と社員契約選手が混在する。

 「ハイブリッドなチームというか、それが日本のラグビーの特徴でもあるので、僕はプロ選手として、ラグビークリニック(教室)もそうですけど、SNSを中心に、自分自身の魅力とか、チームや浦安、周りの魅力をひとつでも多く、発信していければいいなと思います」

 浦安には東京ディズニーランド、ディズニーシーがある。浦安でしたい事を聞かれれば、顔にパッと笑みがひろがった。

 「年間フリーパスを買ってみたいです」

 子どもたちも笑った。子どもたちへのメッセージは?

 「時間があったら、このグラウンドに足を運んでほしいですね」

 浦安はいま、ラグビー熱で沸いている。JR新浦安駅前の壁や屋根には派手なラグビーワールドカップのペイントが施されている。横断幕、ポスターも。強豪のニュージーランド、オーストラリア、南アフリカのキャンプ地ともなっている。

 浦安市民へ?

 「オフ、休みのときには、このグラウンドに寄ってもらったり、緑の芝生を子どもたちと駆けまわったりしてもらって、ラグビーというか、スポーツの魅力に触れてもらいたいですね」

 ひと息ついて、静かに力を込める。

 「みんながスポーツで活気があふれるまちにしていくのがいいんじゃないでしょうか」

 ところで、スポーツの魅力ってなんだろう。そう問えば、少し苦笑いを浮かべた。

 「なんでしょうね。ま、スポーツをやっていると、みんなとコミュニケーションをとりやすい。ラグビーももちろんいいですけど、ほかのスポーツでも。一緒に走っていれば、“元気ですか”“きょうはどのくらい走られているんですか”って。そんなコミュニケーションが生まれてくるんじゃないでしょうか」

 元号は「平成」から「令和」へ変わる。所属チームが変わった。

 「年号が変わりますし、新しい時代にやれることは何でもやっていきたいですね」

 さあ、ラグビーワールドカップへ。プロラガー山田の挑戦は続くのである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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