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パラ選手も笑顔「すごく幸せな景色」~合同パレード

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
リオ五輪パラの合同パレード。パラの辻沙絵選手も笑顔でポーズ。(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

平日の日中というのに、この群衆の数、熱気はどうしたことだろう。7日。秋晴れの青空の下、リオデジャネイロ五輪パラリンピックのメダリストたちによる合同パレードが行われた。オリンピック選手だけの前回ロンドン大会と違って、今回はパラリンピックのメダリストの笑顔もはじけた。

コースが西新橋から銀座―日本橋の約2・5キロ。沿道には、人、人、人の波がつづいた。ビルの窓にも人が群がる。その数がざっと80万人(主催者発表)。前回ロンドン大会あとの「50万人パレード」を大幅に上回った。

二階建てバスの上で、パラリンピックの陸上女子400メートル(切断など)銅メダルの辻沙絵選手も笑顔をふりまいた。

「どんな景色でしたか?」と聞かれると、21歳のパラ陸上のヒロインは「景色ですか…」とちょっぴり戸惑った。

「上を見ても、下を見ても、横を見ても、どこを見ても、多くの方がいらっしゃった。名前を呼んでもらったり、“こっちを向いて~”と言われたり。ほんとうにすごく幸せな景色でしたね」

その幸せな景色を見ながら、辻選手は「感謝」をかみしめていたそうだ。ハンドボールをしていたが、障がい者スポーツを研究する教授のすすめで陸上競技へ転向し、わずか1年半でメダルを手にした頑張り屋。

「この感動を、支えてくれた家族だったり、監督だったりに、一番に伝えたい。ほんと、こうやって、観客のみなさんと距離が近いというのは、なかなかない(状況だ)と思います。だから、いろんな人に支えていただいて、応援していただいたなと感じたのです」

間違いなく、障がい者スポーツ、とくにパラリンピックの認知度は上がった。パラリンピアンを取り巻く環境も劇的に変わってきた。

昨年発足したスポーツ庁の意向もあってだろうが、今回は初めて、オリンピック選手、パラリンピック選手の合同パレードも実現した。

辻選手も変化は実感している。

「やっぱりパラ・スポーツが、どんどん、どんどん、世の中に広まっていって、いろんな人の目に触れる機会が増えたことが一番、大きな変化かなと思っています」

そうはいっても、オリンピック選手とパラリンピック選手に対する国などの支援の規模は大きくちがう。個人頼みの強化には限界があり、今回はパラリンピック大会では史上初めて金メダルがゼロに終わった。

是非はともかく、スポーツ庁や日本パラリンピック委員会(JPC)が金メダルやメダル量産を目標におく以上、強化態勢の見直し、育成戦略の整備、支援アップが必要となる。

4年後には、オリンピック・パラリンピックが東京にやってくる。辻選手は言った。

「もう2020年の東京大会までの戦いが始まっていますので、1日、1日を大切にして、もっとパラ・スポーツが面白いんだということを、みなさんに伝えられるよう、がんばっていきたいと思います」

パラリンピック車いすテニス女子シングルス銅メダルで日本選手団旗手だった上地結衣選手は、「オリンピック選手と一緒に(パレードに)参加できてうれしい」と笑顔で漏らし、こう続けた。

「オリンピック、パラリンピック関係なく、多くの方が応援してくださっているなと感じました。きょうの感動、自分自身が感じた記憶を忘れずに1日1日を過ごしていけたらいいなと思います」

パラリンピック競泳(視覚障害)で4つのメダルを獲得した木村敬一選手はこころで群衆をみた。声援を聞き、熱気を感じた。

「オリンピックの選手たちと同じように扱ってもらえるのはうれしい。(沿道から)絶え間なく、すごい声援をいただいたので、それでたくさんの人がいるとわかりました。(2020年の)東京では、地元開催ということで、もっとたくさんの人が応援してくださると思いますので、もっと盛り上げられるよう、日々を大切にしていきたいと思います」

ふたたび、辻選手。

「(オリンピック選手もパラリンピック選手も)やっぱり日本選手団がひとつになって、(東京大会に向け)戦いに挑むという態勢が大事かなと思います」

この興奮と熱気はつづく。オリンピック選手も、パラリンピック選手も。もう4年後へ向けた戦いがはじまった。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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