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サクラセブンズ、五輪に前進。復活アヤカも笑顔。

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
優勝決定後、歓喜にわくサクラセブンズ(写真:松瀬学)

夜の香港。カクテル光線を受け、優勝トロフィーが光り輝く。7人制ラグビー(セブンズ)の女子日本代表『サクラセブンズ』の笑顔も眩しく感じる。浅見敬子ヘッドコーチ(HC)は声を張り上げた。「大満足です」

香港スタジアムで行われていたリオデジャネイロ五輪アジア予選の香港大会である。女子の場合は、男子の一発勝負とちがい、東京大会(11月28日、29日・秩父宮)とのトータルでの勝ち点で五輪キップが決まる。だが、ここで優勝してアドバンテージをとったことは大きい。五輪キップ獲得に大きく前進したといっていいだろう。

もちろん浅見HCは気を引き締めるのも忘れなかった。「対策をとって、東京大会では1つ1つ、しっかり勝っていきたいと思います」と。主将の中村知春もこう、言った。「まだまだ修正することはある。オリンピック予選だから、何が起こるかわかりません」

女子セブンズをリードしてきた鈴木彩香は、騒々しい通路で感慨深そうだった。左足には黒いテーピングの跡が残る。左ひざの前十字じん帯断裂の大けがなど数々の試練を乗り越えての大舞台である。「夢をあきらめない」。その言葉を胸にチャレンジしてきた。

「おめでとう」と声をかければ、26歳は「もう泣けてきます。目がウルウルです」と涙声だった。

「3、4年前から、オリンピックで金メダルをとるために集まってきて、みんなで苦しいことも乗り越えてきました。自分はというと、けがとか、いろいろあって、(代表から)抜けたりしましたが…。結局、ラグビーが大好きで、みんなと一緒に夢を追いかけたくてこの場に戻ってきて…。すごく幸せです」

鈴木は懸命のリハビリを続けてきた。初夏。ナショナルトレーニングセンター(NTC)ではひとりで激闘していた。その時、偶然、会った。「絶対、オリンピックをあきらめません」と彼女は漏らした。

試練は人の成長を促す。けがをして、「感謝」を知った。「献身」の大事さも。一人では何もできないことを学んだ。周りのサポートがあってこそ、グラウンドに立てるのである。鈴木はこう、しみじみと漏らした。

「だれかのために戦うのだということを、自分に教えてくれるために、けがしたのかと思うくらい、たくさんの人が応援してくれて…。支えてくれて…。押し上げてくれました。うれしかったですね」

宣言通り、サクラセブンズに復帰し、アジアシリーズのコロンボ大会(10月10日・11日)で試合にカムバックした。ポジションは従来の司令塔役ではなく、スクラムを組む、不慣れなフォワードである。依然の彼女なら、拒んだかもしれない。でも、「素直に受け入れました」と口を開けて笑った。

「毎日、首が痛くなりながら、スクラムの練習をスタッフの人にしてもらっています。ぜんぶ新しいチャレンジです」。チームの勝利のため。いい顔になった。

リオ五輪が見えてきた。それでも、五輪予選はなにが起こるかわからない。「ほんとうにグランドに出て思ったのは、やってきたことしか出ないということです。後悔がないよう、いい準備をして、しっかり自分たちがやれることをやり切りたいと思います」。

さらに、夢と表現していた五輪金メダル。「もうワンステップというか、ツーステップも、スリーステップも上がっていかないと、世界では勝てないと思います」。

アヤカに限らない、個性豊かでポジティブな選手がそろうサクラセブンズ。いろんな思いが重なり合って、まずはオリンピック・キップ獲得に全力で走る。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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