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世界にはばたく五郎丸

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
トップリーグの記者会見。応援キャラクター「ゴジラ」と並んだ五郎丸。(写真:田村翔/アフロスポーツ)

一躍「時の人」となったラグビー日本代表のフルバック五郎丸歩(ヤマハ発動機)のラグビー人生がひろがっていく。名前のごとく、一歩一歩、着実に歩み、ワールドカップ(W杯)イングランド大会ではベストフィフティーン(ドリームチーム)に選ばれた。来年2月からは世界最高峰リーグ、スーパーラグビー(SR)のクイーンズランド・レッズ(オーストラリア)に挑むことになった。

誠実である。まじめである。2日の国内リーグ、トップリーグ(TL)の記者会見。TL応援キャラクターになったゴジラについて、「ゴジラの応援をどう思いますか?」という記者の突飛な質問にも、真顔でこう、答えた。「とくにないです」

五郎丸を取り囲む環境は激変した。「世界が変わりましたか?」と問えば、幾重にも取り囲む報道陣を見て、「このメディアの数を見れば、変わりましたね」と笑った。

「メディアの数も、ファンの数も増えました。ラグビー界にとっては、いいことだと思います。(まちで声をかけられることは)増えましたね。(ヤマハの本拠地の)磐田が一番、少ないんじゃないですか。もう8年もいますので」

ヤマハの練習にもファンが押しかけるようになった。トップリーグのヤマハ戦のチケットも売れている。

「練習から、100人、200人がきているのは、チームにとってはいいことだと思います。(ファンに)見られる中で練習するのは、選手にとっていいモチベーションになります。ま、こういう状況は少しの間だと思うので。これで、多くの方がラグビーを知ってもらえればいいのかなと」

W杯での五郎丸の活躍は記憶に新しい。W杯初出場ながら、1次リーグ4試合で58点をマークし、歴史的な3勝を挙げた日本代表の原動力となった。ベストフィフティーンにも選ばれ、そうそうたる世界を代表する選手たちの仲間入りをした。

「世界から日本のラグビーが認められた証拠だと思います。ぼくだけじゃなく、日本代表の選手は、この4年間、すべてのものを犠牲にして努力してきました。それが報われる形となって、満足しています」

その延長として、レッズからオファーがきた。うれしいじゃないの。より高いレベルでの試合がさらに五郎丸の可能性を押し上げていくことになる。

その前にトップリーグの戦いがある。恐らく、どの競技場も満員となるだろう。「チケットは売り切れ続出ですが」と聞かれると、「うれしいですね」と漏らした。

「4年前から、こういう姿になりたいと思って、ずっとやってきましたので。ほんとうに日本代表が成し遂げた大きさを感じながら、プレーしたい。これを一瞬で終わらせるのではなく、2019年にどうつなげていくのか。我々だけではなく、代表選手ではなかった(トップリーグの)選手たちもそういう考えになってきているのが、いいことじゃないかと思います」

この人気を持続させていくためにはどうすべきか。初めてトップリーグの試合にきた観戦客を、リピーターにするためには。

「自分らがプレーで100%、出し続けることでしょうね。選手としてはそれしかない。他のことを考えたり、派手なプレーをしようとしたりせず、自分の持っている力を100%出すのが大事だと思います」

メディアの囲みが解かれたあと、巷で話題となっているキックを蹴る際の独特のポーズのことを聞いてみた。「子どもたちがマネをするのはどうですか?」と。

「ラグビーを見るきっかけになってくれるのなら、いいことだと思います。ただ、それをバラエティー番組とかで面白おかしくされるのはおかしいじゃないですか」

29歳。五郎丸の心はラグビー選手としての自身の成長と、トップリーグ、いや日本ラグビーの発展に向かっているのである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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