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どうしたワセダ

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

悪夢である。ショックである。屈辱である。14トライもとられるとは。1日、ワセダが王者帝京大に15-92で惨敗した。確かにひとり一人のフィジカル、パワー、スピード、判断の差は大きいけれど、一番悔しいのはワセダの基本プレーの甘さだった。

あえてワセダらしさといえば、何が何でも勝つという勝利への執着、ひたむきさ、基本プレーの確かさである。例えば、1本のパス、キャッチ、1本のタックル、低さ、踏み込み、足の運び。スクラムの結束、押し。イーブンボールへの飛び込み、ダブルタックルでのドライブ(足のかき)。倒れたあとの起き上がり。二人目の寄り。ミスしたあとのリアクション。ピンチでの戻り、我慢…。

「結果からいうと」と、ワセダの後藤禎和監督は会見で声を絞り出した。

「向こうの力量が一枚も二枚も上ということで、予想以上のプレッシャーを受けて大敗となってしまった。これ以上、言うことはありません」

勝負どころは、前半の終盤、相手プロップがシンビン(一時的退場)をもらったあと、ワセダが1人多い10分間だった。この時、点差は21点。1トライか、2トライを返せば、勝敗の行方は分からなかった。だがFWが1人多いのに、ゴール前のスクラムを押し込めない。

持ち込んでも、CTB久富の姿勢が高い。フランカー宮里が前に出ても倒れ方が悪く、ノットリリースの反則を取られてしまった。二人目の寄りも遅かった。判断、反応のスピードが少しずつ遅れる。

帝京にターンオーバーされ、右に展開されて、ウイングの尾崎にディフェンスラインの裏に小さなパントを蹴られた。インゴールに転がるボールを追いかけたのは帝京が尾崎とCTB金田、フランカー亀井ら。ワセダで懸命に戻ったのは、ロックの加藤とウイング門田。ワセダの危機意識は薄かった。

もしもTMOならノートライだっただろうが、レフリーとタッチジャッジは尾崎が手で押さえたとしてトライを宣告した。もはやトライの正誤を言いたいのではなく、両チームのチャンス、ピンチでの集中力の違いである。要所での赤いジャージのはやさ、結集はさすがだった。

さらに帝京はウイング竹山がトライを加え、ひとり少ない時間帯に2トライを追加、36-3とした、ワセダとしては、差を33点に広げられてしまった。体力はともかく、ここでの精神的ダメージは大きかったに違いない。

ワセダの岡田主将は悔しさを押し殺してこう、言った。

「できるだけの準備をしてきたつもりですけど、準備してきたものを出せなかった。相手のプレッシャーで、出させてもらえなかった。とくにボールキャリアとタックラーのところでプレッシャーを受けてしまった。自分たちの想像していた以上に、タックルの強さ、ふたり目のはやさにプレッシャーをもらって、ボールを次につなげることができませんでした」

結局、帝京には許した14本のトライのうち、バックスに13本、両ウイングに10本も走られた。FWにディフェンスを集められ、ラインが余ったら回されたのである。つまりは、FWの1対1のファイト、コンタクトエリアで圧倒されていたのである。

さらには、帝京はウイングから的確な指示が出ていたのだろう。「引き出し」の多さは、互いのコミュニケーションがなければ、生かされない。ボールを持ってない選手の判断、声掛けも大事である。

どうするのだ、ワセダ。けが人が多いこともあって、筑波大、帝京大に敗れ、土俵際に追い込まれた。「今の率直な心境は?」と聞かれ、後藤監督は声のトーンを上げた。

「下を向いているヒマはない。残された時間で、やれるだけのことをやるだけ。(大学選手権の)優勝を目指してがんばるだけです」

そのための準備をどうするのか。時間は限られている。どこで勝負するのか。やることの集中と選択か。

混とんとしたら、まずは基本プレーに立ち戻るべきだろう。丁寧に徹底的に。練習から、1本のパス、1本のキック、1本のタックルに魂を込めるのである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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