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女子サッカー文化って何なのだ

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

スポーツでいう文化って何だろう。サッカーの女子ワールドカップ(W杯)カナダ大会で準優勝した日本女子代表『なでしこジャパン』のメンバーが7日、成田空港に帰国した。宮間あや主将(岡山湯郷)は会見で、大会2連覇を逃した悔しさを表情ににじませながら、「女子のサッカーが文化になっていけたらいいなと思います」と言った。

宮間主将は「女子サッカーをブームではなく、文化にしたい」と口にしてきた。いまや女子サッカーの人気たるやすごいものである。この日だって、成田空港には数百人のファンが大きな歓声と拍手で出迎えた。多くの人に女子サッカーは浸透し、もはや文化になっていると言ってもいいのではないかと思う。でも、宮間主将の実感では違うらしい。

会見で、手を挙げて、「もう文化になっているんじゃないですか?」と聞いた。宮間主将は「1人でも多くの方にそう言っていただければうれしいです」と笑顔を浮かべ、苦しい胸の内を明かした。

「とはいえ、2011年のワールドカップで優勝して、たくさんの方に関心や興味を持っていただき、注目していただきながらも、国内の女子リーグ(なでしこリーグ)で観客が増えません。減っている状況があります。大きな大会がある度に注目していただいている風には感じますが、私自身は結果を出し続けなければ、すぐにみなさんは(女子サッカーから)離れていってしまうんじゃないかという不安を抱えながら、選手として戦っています。そういう不安を感じなくなったら、きっと女子サッカーが文化になったといえるんじゃないかと思います」

フビンである。健気である。よほど責任感が強いのだろう。主将としての使命感かもしれない。確かに、なでしこリーグの平均観客数は2011年(2795人)をピークに下降線をたどり、本年度(1456人=5月現在)も伸び悩んでいる。男子と比べると寂しいけれど、ラグビーなどと比べるとそれほどでもないと思うのだが。

2012年ロンドン五輪銀メダルを含め、世界大会で3度も続けて決勝に進んで、なでしこジャパンの人気も定着した感がある。競技のメジャー化にはやはり、世界規模の大会で好成績を挙げるのが一番である。だから、タレント発掘から育成・強化まで、ユース世代を経験して日本代表に入って活躍する、その流れを作るのが重要になるのである。

日本サッカー協会の女子の登録チーム(14年度で1216チーム)は少しずつ増え、登録選手数(約4万8千人)も4年前から1万人ほどアップした。それでも、「文化に」と30歳の宮間主将が強調するのは、自身が厳しい環境を体験してきたからだろう。

だいたい「文化」って何だろう。2011年制定のスポーツ基本法の序文には「スポーツは世界人類共通の文化である」と明記されている。『広辞苑』をひくと、「人間が自然に手を加えて形成してきた物心両面の成果」「西洋では、人間の生活に関わるものを文化と呼ぶ」とあった。

簡単にいえば、人が人として生きていくために必要なもの、人の心を豊かにするものである。ならば、もう女子サッカーは文化じゃないの。記者会見が終わった後、ミックスゾーンでも宮間主将にしつこく聞いた。「どういう状態を文化って言うのでしょうか?」と。

宮間主将はこちらの目をまっすぐ見て、誠実に答えてくれた。

「例えば、女子サッカーの試合だといったら、女子サッカーのユニフォームを着た女の子がスタジアムに向かっていく。そういう状態になることが文化かなと思います。Jリーグの選手が、サッカーの人気がなくなったらどうしようと思うかというと、そういうことは思っていないでしょう。つまり、そういう状態です。試合に勝つことだけでなく、ふだんからの姿勢だったり、女子サッカー選手としての努力だったり…。子どもたちにああいう風になりたいと思ってもらえるようになることが大事だと思います」

つまり女子サッカーを男子同様、メジャー競技にしたいということである。メジャーになれば、環境も整備され、ファンにとっての文化ともなる。7日は七夕だった。短冊になにか願い事を書くとしたら?と聞かれ、宮間主将は戸惑いながらこう、答えた。

「いまサッカーを始めようとしている人たちや頑張っている人たちが、きちんとサッカーをがんばれる環境だったり、私たちを目標にがんばろうという選手たちが最後までサッカーをできるような環境だったり、そういう風になったらいいなと思います。だから私はこれまで通り、日々を大切にして頑張っていきたいのです」

週末、なでしこリーグが再開される。なでしこジャパンのメンバーの戦いも続く。女子サッカーを文化にするために。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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