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ミス続発…。落胆のワセダ。

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

ワセダファンにとっては、さぞ哀しい敗戦だったのだろう。パスミス、判断ミス、ラインアウトのミス…。記者席からスタンドを降りる際、見ず知らずの年輩の紳士(たぶんワセダファン)から、どこか憂いをたたえた目でこう、声を掛けられた。「ミスが多過ぎるね、ワセダ。どうしちゃったんだい」と。

確かに、ワセダはミスが多かった。かつての試合巧者らしさはどこへやら、公式戦で東海大に初めて敗北を喫した。ワセダのFB、日本代表の藤田慶和は試合後の通路で、「いやー。悔しいですね」と声を絞り出した。

「集中力の意味を東海の方がわかっていました。ワセダは、仕留めるところで仕留められなかった。プレーの精度がまだまだ甘かったですね」

ポイントは、強力FWの東海大とのセットプレー(スクラム、ラインアウト)と接点での勝負だった。FWの平均体重は東海大の104キロに対し、ワセダは99キロだった。スクラムは総じて、がんばった。ブレイクダウンでも、個々はよくファイトした。

だが3点リードで迎えた後半30分過ぎ。自陣でのマイボールのスクラムで圧力をじわりと受け、左ラインへ回した。ラックができる。その球出しを、焦ったSH岡田一平がファンブルした。これは痛かった。

相手ボールのスクラムとなり、そこから連続攻撃を仕掛けられ、フトコロの深い2人の外国人ロック(4番ダラス・タタナ、5番テトウヒ・ロバーツ)にうまく運ばれ、最後はWTBの石井魁に逆転トライを許すのだ。

残り時間が5分少々。チャンスは十分、ある。でも、その後のラインアウトではノットストレートで反撃のチャンスをつぶした。

後半、7本あったマイボールのラインアウトできっちり捕球できたのは、わずか3本だった。これではリズムに乗れない。チャンスを広げることができない。

資質はともかく、ワセダは1年間、一生懸命に練習してきた。スローワーのフッカー、清水新也はシーズン中、朝6時から1時間、スローイングの早朝練習を自主的に続けてきた。この2週間は、FW全員も、寒さに耐えながら、清水と一緒に早朝のラインアウト練習に取り組んだ。努力はしてきたのだ。

もちろん、ラインアウトの失敗は何も、スローワーだけの責任ではない。ジャンパーも、リフターも、関係している。リズムが悪い。風もあれば、重圧もある。どこか不安げなフッカー清水が敵陣ゴール前でノットストレートのミスを連発した。

それにしても、である。フィジカルの差はともかく、ワセダは基本プレーが雑だった。パスのスピード、スキル、まっすぐ前に出るラン、ブレイクダウンでのボールキャリアの姿勢、二人目の寄り、タックルの踏み込み…。さらにはPKをとったときの判断、SO横山陽介のゴールキックの精度、ピンチ、チャンスでのまとまり…。

誠実な大峯功三主将は失意を奥にしまいながら、「悔しい気持ちです」と漏らした。

「やっぱりミスをして…。1個のミスがこういう結果になってしまいました。でも後輩たちが必ず、(王座奪回を)やってくれると思います。ミスをしない精度の高いチームをつくってほしい」

ワセダの後藤禎和監督はこう、言った。いつも正直である。

「勝負どころで得点するということ、あるいはPGであったり、ラインアウトであったり、それをものにすることができなかった。今シーズン抱えてきた課題を、最後まで克服することができませんでした」

今後のワセダのことを聞かれると、こう続けた。「プレー面では、細かいミスが多かったので、精度を高めていく。チーム、組織ということでは、いろんな意味で構造改革、環境整備が必要でしょう」と。

言わんとするのは、有望選手の獲得策から、コーチやスタッフ整備、食事やトレーニング環境の改善などのことなのだろう。

これでフランカーの布巻峻介やCTB小倉順平、WTB荻野岳志ら4年生がごっそりと抜ける。3年生の藤田は来季の「挑戦」を訴えた。

「いろんなことを、いい風に変えていきたい。新しいやり方、最新なものもとりいれたほうがいいかもしれません。チャレンジしていきたい」

ワセダにとっては、ラグビーのない、屈辱の正月である。ファンはひたすら耐え、3年生以下は悔しさを糧に「精進」を誓うしかあるまい。チーム環境を含め、まずは真摯な総括、さらには来季への大胆かつ精緻な設計図を。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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