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もう1つの大学選手権、改革すべき時期はいま

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

「もうひとつの大学選手権」の全国地区対抗大学ラグビーは、新春の1月2日から4日、6日の3日間、愛知・瑞穂公園ラグビー場で開催される。今回が65回目で、歴史は全国大学選手権の51回を大きく上回る。反面、大会価値はどんどん小さくなり、観客もとても少ない。「存在意義はあるのか?」と疑問を投げかけるラグビー関係者も少なくない。

だが、大会2連覇を目指す東京学芸大の笠松具晃監督は「とても価値がある」と言う。

「北は北海道から南は九州まで、本当に全国の大学が集まってくる大会です。いろんな大学と戦うことは意義があって、その中で勝利を目指すことは貴いのです。ラグビーの本質は、我々も、トップリーグも、大学選手権も変わりません」

ラグビーの本質とは、学芸大の学生がよく口にする「Let‘s(レッツ)」というコトバに表れている。命令されるのではなく、自らの意志で動く。つらい練習もみんなで乗り越える。役割のちがうポジションの15人が一緒になって、ひとつの目標(勝利)に向かって戦うのである。

さらにいえば、どんな体格でも、異なる運動能力の持ち主でも、それぞれの役割を果たすことで周りからレスペクトされる。例えば、足が遅くても、からだを張ってタックルすれば、仲間から称賛を浴びるのである。また地区対抗の参加チームをみれば、「文武両道」を実践している大学が多い。

そうは言っても、やはり大会の存在感は薄い。メディアの露出も小さい。観客(無料)も少なく、決勝戦は毎年、200~300人といったところである。かつては全国のトップクラス入りするための登竜門というとらえ方をされていたが、今では大会の位置付け、魅力が混とんとしている。

最近は存続の意義が問われ、このままだと「廃止論」も出るかもしれない。だから、ここで知恵を絞り、大会の魅力をどう高めるかの議論が求められている。ひと言で言えば、「改革の時期」なのである。

大学選手権とは違う魅力をどう創造するのか。地域協会に委ねている選考方式を全国で統一し、出場において共通の条件整備が必要なのではないか。

どうやって観客を増やすのか。一日置きの3日間大会ならば、その休養日に違う大会を併せて開けないか。大学の男女のセブンズ(7人制ラグビー)があってもいい。あるいは、人々が集まるイベントを開いてはどうだ。

出場大学のご当地の祭りやグルメ(食)があっていいし、応援コンテストがあってもいい。「大学ラグビー&ふるさと祭り・IN・ナゴヤ」なんて。

兎に角、全国の大学の少なくないラガーマンが1年間、練習に励み、その成果を出すステージである。フィールドだけでなく、スタンドも、名古屋も、どーんと盛りあがってほしいのである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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