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なぜテレビ各局が生中継したのか

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

日本サッカー協会は12日、東京都内のホテルで、ワールドカップ(W杯)ブラジル大会の日本代表メンバー23選手を発表し、NHKや民放各局で生中継された。もちろん国民的関心事ゆえだが、日本協会の高度なメディア戦略も見逃せない。

放送権料はゼロである。日本サッカー協会が「カネより、ひとりでも多くの人々に伝えてもらうこと」を優先した結果、NHKやフジテレビ、TBSテレビが、午後2時開始の記者会見を「緊急生中継!」し、日本テレビやテレビ朝日などもレギュラーの情報番組、ワイドショーの中で生中継した(独自路線のテレビ東京は洋画放送)。また日本サッカー協会の公式Webサイトでも、インターネット・ライブ放送が流された。

このW杯メンバー発表のテレビ生中継は、2006年のドイツ大会の時から本格的に始まった。「たかがメンバー発表ですけど、されどメンバー発表です」と、某民放の幹部が説明する。

「これほど多くのテレビ局が、同じタイミングで生中継やるコンテンツはないでしょう。サッカー人気の高さ、W杯への期待の表れじゃないですか。できれば、いくらか放送権料を出してウチが独占生中継でやりたいけれど、サッカー協会はそこでビジネスをするわけでなく、みんなに愛されるスポーツとなることに役立てたいと考えているのでしょう」

もっとも、よく見れば、会見場のひな壇のアルベルト・ザッケローニ監督の後ろには、日本協会のスポンサーロゴのパネルが立てられている。テーブルの上にはスポンサーの商品も並ぶ。テレビ中継を通してスポンサー露出が増えることで、莫大な協賛金を出している企業を喜ばすことにもなっている。

この日はプロ野球の試合やビッグイベントが少ない、いわゆるスポーツの「ネタ切れ」の月曜日でもある。どうしても翌日の新聞の露出も大きくなる。さらなるサッカーの人気拡大につながるというわけだ。

ついでにいえば、記者会見場には約400人ものメディアが押しかけた。他の競技団体と違い、日本サッカー協会が煩雑な記者会見の取材申請を求めていないこととも無関係ではあるまい。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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