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タグラグビーでココロを鍛える

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

子どもたちはみんな、夢がある。勝って喜び、負けては悔しくて涙を流す。おおきなステージに出て、人生の厳しさを知るのだ。

タグラグビーの『浦安ラグビースクール』の鈴木海太(かいた)校長はこう、しみじみと話す。「ラグビーはココロを強くする。運動をやっているんだけど、じつはココロを鍛えているのかな、と思います」と。

8日、9日。全国小学生タグラグビー選手権が秩父宮ラグビー場と国立競技場で開かれた。10回目を迎えた大会には全国の予選を勝ち抜いた24チームが出場した。小学生といえども、ここにも峻厳たる勝負が存在する。選手はもちろん、コーチも親も必死なのだ。

タグラグビーは、タックルなど接触プレーがないラグビーである。タックルの代わりにタグ(帯)をとる。1990年代から、子どもたちを中心に一気にひろがった。男女とも出場OKのため、この年代の特徴ゆえか、俊足の女の子がめだつ。

晴天の下、子どもたちは寒風を突いて、走りまわった。元気だ。スタンドから親たちの声援がとぶ。

「いいぞ。いいぞ~。走れ~!」

「落ち着けー」

「ナイス。トライ!」

初出場の浦安ラグビースクールには、ちょっとしたドラマがあった。創部14年。部員が100人余。予選出場で登録する際、力の強い順にAから順にチーム分けした4チームをエントリーした。大会の規定により、原則、予選登録からメンバーを変えられない。

浦安ラグビースクールのAチームとBチームが、千葉県予選を勝ち抜き、残酷にも、中関東ブロック大会で2つ目の全国大会出場権をかけて戦うことになった。ほとんどの人はAチームが勝つと予想していただろう。だが、勝負はわからない。Bチーム(浦安ウイングスブラック)が劇的な勝利を収め、全国大会のキップを獲得したのだった。

「あきらめない、ということでしょうか」と、鈴木校長が振り返る。

「Aはフツーにやって、Bに勝てば“全国だな”と思ったのでしょう。でもBチームの闘志がAにまさった。試合後、Aチームの子は泣き崩れ、Bチームの子たちは“自分たちが全国大会に行っていいのかな”と戸惑っているというか、複雑な感じでした。ただ、ずっとスクール全員の目標は全国大会出場でした。みんなの努力で、その目標は達成できたのです。Aチームの子が得た挫折感も、将来、すごく大きな財産になると思います」

その試合、Aチームのキャプテンの高橋陽太(ひなた)くんがけがで出場していなかったことも勝敗に影響したのだろう。代表決定の夜の懇親会で、高橋くんはこう、あいさつしたそうだ。「Bチーム、おめでとうございます。全国大会まで、みんなで精いっぱい、Bチームをサポートします」と。子どもたちも親もほとんどが、泣いたそうだ。

けがが治った高橋くんもAチームも、練習ではBチームの相手となった。そのBチームの『浦安ウイングスブラック』は9日、予選リーグで2勝1敗、ボウルトーナメント(9~16位に相当)1回戦で敗れた。高橋くんはスタンドから声を枯らした。

「試合に出たかった」と高橋くんはぽつりと漏らした。「でも一生懸命応援しました。ブラック(Bチーム)も一生懸命プレーしてくれました。タグラグビーで得た仲間はぼくの宝物です。人の輪がひろがった。キャプテンとして、ちょっと責任感も出たのかな」

スポーツはいい。とくにラグビーは。<ラグビーは少年をいち早くオトナにし、オトナにいつまでも少年のココロを抱かせる>という有名なフレーズがある。小学生たちはタグラグビーを通し、たぶん、人間的にも成長したにちがいない。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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