Yahoo!ニュース

ラグビーとバレー

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

『MB1』と言っても、マウンテンバイクの話ではない。ロンドン五輪銅メダルのバレーボール日本女子がチャレンジしている新戦術の話である。どうしても強豪国よりサイズで劣る日本が世界一になるためには知恵を絞り、攻撃の幅を増やさないといけない。

そこでMB1。日本はワールドグランドチャンピオンズ杯で、ブロックと速攻の軸となる長身のミドルブロッカー(MB)を2人から1人に減らし、攻撃的なウイングスパイカー(WS)を4人に増やした。

オモシロいと思った。サイズやフィジカルでは世界一になれないのだから、発想を変えないといけない。五輪の翌年だ。何かにチャレンジし、話題を集め、選手のモチベーションを高めるにはもってこいだろう。

結局、日本は3勝2敗で3位となった。新戦術のカギを握るセッター中道瞳はこう、総括した。「新戦術に取り組んでたった1ケ月。正直、不安もありましたが、結果を残せたのはよかったかなと思います」

そして、こう続けた。「いままでのバレーでは世界一にはなれない。自分たちよりも能力が高いチームには絶対、同じことをやっても勝てないのだから、何かを変えていかないといけない。そうはいっても小さい選手が多い日本なので、サーブとかサーブレシーブ、ディフェンスは絶対、世界のトップにならないといけないのです」

週末、女子バレーボールを取材しながら、ラグビーの日本代表(ジャパン)が重なってしまった。ラグビーでいえば、サーブとサーブレシーブはセットプレーに相当するだろう。スクラムとラインアウトがしっかりしないと強豪相手にはまず、勝てない。

ジャパンのカギは、セットプレーからいかに前に出るか、である。どうアタックするか。エディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)は就任時、「世界一のアタッキングチームになる」と宣言し、シェイプ(連動した攻撃の型)を重ねて防御網を崩し、トライを奪おうとしてきた。

ジャパンの場合、シェープとブレイクダウンはふたつでひとつ、連動している。攻撃のオプションを増やすことで、相手のディフェンスの的をばらし、極力、1対1(あるいは0)の局面をつくる。ブレイクダウンから生きた球が出せれば、ハーフ団のゲームメイクも楽になる。

ブレイクダウンは、バレーでいうレシーブに相当するだろう。SHがセッターである。SHのパスの精度が、攻撃のリズムをつくることになる。相手に的を絞らせない、スピード、テンポ、バリエーションをもたす、これがジャパンの攻めのポイントである。

バレーボールの日本女子の新戦術『MB1』は今大会、ロシアやタイ、ドミニカ共和国には通用したけれど、ブロックシステムが整備されている世界一のブラジル、米国には通用しなかった。

欧州遠征中のラグビーのジャパンはロシアに勝ったけれど、スコットランドには敗れた。先にディフェンスが堅固なニュージーランドにはトライを獲ることすらできなかった。どこか、ラグビーと女子バレー、置かれている状況が似てはいまいか。

ジャパンの課題は「突破」の部分である。いかにゲインラインを切るか。とくにセットプレーからどうやってボールを前に運ぶのかである。

ラグビーでもバレーでも、単調なら、ディフェンスライン(ブロック網)を崩すことは難しい。アングルチェンジ、タイミングずらし(時間差攻撃)を駆使し、連携プレー(コンビバレー)を仕掛けていくのである。その上で必殺のサインプレー。

そのためには、ラグビーであれ、バレーであれ、プレーの精度(技術)、フィジカル、継続(粘り強さ)が必要となる。その競技の理解度、対応力、連携もポイントか。

そういえば、ジョーンズHCはかつて、バレー日本女子の真鍋政義監督とディスカッションをしたことがあるそうだ。「世界」で戦っていくために。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

松瀬学の最近の記事