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女子バレー、新戦術のかぎは?

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

バレーボールのワールドグランドチャンピオンズ杯女子大会で、ロンドン五輪銅メダルの日本は2001年大会以来の3位以内を確定した。焦点が、新しい戦術である。「もう頭はいっぱい、いっぱいです」と苦笑しながらも、新戦術のカギを握るセッターの中道瞳は手応えをつかんでいる。

「攻撃を組み立てていて、相手が戸惑っている部分がすごくわかります。いまは楽しさ半分、大変さ半分で…。しんどいですけど、結果がついてきてくれているので少しは自信になります」

日本の新戦術とは、ブロックや速攻の軸となるミドルブロッカー(MB)が入る場所に、迫田さおりといったスパイク能力が高いウイングスパイカーを入れる布陣をしくこと。MBが1人となる。

従来にはない発想で、サッカーでいえば、1トップ、2トップをイッキに4人にするようなものか。ラグビーでなら、CTBをひとり減らし、WTBを3人、あるいはFBを2人に増やすようなものかもしれない。

要は、速攻を減らしながらも、バックアタックを駆使し、攻撃の幅を広げることになる。16日のドミニカ共和国戦。1、2セット目は、ノーマークの迫田がポイントを重ね、ブロックが手薄になれば、サイドからエースの木村沙織が強打を決めた。

ジュースにもつれ込んだ第3セット。26-27から、前衛ポジションの迫田がバックから中央に走り込んでの強打、さらには木村がレフトから連続ポイントをマークし、29-27でストレート勝ちした。

この新戦術を採用して1ケ月。カギを握るのは、まずはサーブとレシーブである。さらには中道のトス回しとなる。相手のブロックや布陣を読み、攻撃パターンを考える。中道が説明する。

「やっぱり今までやったことのない攻撃のテンポなので、相手ブロッカーが付いてきた時に本当にそこにあげていい選択なのかを考えないといけない。迫田のバックアタックに、サイドのアタッカーのテンポが同時になれば、クイックはいらないんじゃないかという発想なので、そのテンポが合うのが大事なことになります」

つまりは、真鍋政義監督のコトバを借りると、『シンクロ攻撃』である。レシーブの質はもちろん、パスの質、トスの質、全員のコンビネーションの精度が求められることになる。

課題も見えた。サーブレシーブの際、「アウト・オブ・ポジション」があるので、迫田の動きが制限される。チャンスボールの時、迫田の前にボールが落ちたこともあった。コートの真ん中がばたついた。

また3人が真ん中に束になってから行う米国の「バンチリードブロック」システムには新戦術はほとんど通用しなかった。

兎にも角にも、身長が他国より低い日本がでかい相手と戦う場合のひとつのオプションとしてはオモシロい。問題は、この新戦術の精度をどう上げるか、あるいは相手が新戦術に慣れた時、どう対抗していくのか、である。

「目標は世界一」と中道は言う。

「新戦術の手応えはあるけれど、アメリカのような組織だったブロックに対しては結果を残せなかった。そこの壁を破っていかないと、金メダルへの道は開けません」

まだ試行錯誤の途上である。この新戦術が確立され、相手や展開によって、幾つかの戦術を使い分けるカタチになるのが理想か。

なんと言っても話題性はある。新たなチャレンジは見ていてワクワクするのである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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