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早稲田、敗戦にも「打倒!帝京」に手応え

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

憎らしいほどの王者帝京大の余裕である。フィジカルとメンタルの強さゆえだろう、ここぞという時に一気にギアが上がる。帝京大の中村亮土主将は試合中、チームメイトにこう、言い続けたそうだ。「後半20分からは帝京の時間帯。我慢強く戦っていこう」と。

裏を返せば、ワセダは心身とも、ぎりぎりのところでプレーしていたことになる。試合の入りはよかった。スクラムで優位に立ち、タックルでもよく前に出た。敵陣に入り、はやいテンポでボールを動かしていく。狙いは散らしてのWTB勝負。WTB深津健吾のトライなどで11点を先取した。

だが、キックとチェースの精度が悪かった。故障から復帰したSO小倉順平のキックは不安定で、陣地を稼ぐキックがノータッチ、あるいはクイックスローインを許して、相手にカウンターから大幅ゲインを許す。ゴール前までボールを運ばれると、フィジカル、体幹の強さを生かしたFWの突進を浴び、インゴールを割られてしまうのだった。

フランカーの布巻峻介のコトバが相手FWのパワーを物語る。「リードしても、どっかでくるぞとの恐怖感があった。わかっているけど、止めきれなかった。重い。止めたと思っても、そこから1、2歩出てくる」。怒とうの寄りから3トライを献上。前半終了間際、疲労がワセダFWの足腰にきていた。

でもワセダの気力は衰えない。後半30分、途中交代のSH平野航輝がラックの右サイドをもぐり込んで中央にトライ、ゴールも成って26-26の同点とした。試合後、プロップの垣永慎之介主将が打ち明ける。「同点となって、ミスしないよう、丁寧にやらなければいけないという意識がつよくなった。アグレッシブさに欠けました」と。

3分後、帝京大に力ずくのトライを奪われ、さらに4分後、ワセダのゴール前ラインアウトのモールでボールを奪取され、ダメ押しのトライを奪われた。結局、31-40で敗れた。両チームの地力の差はスコア以上に大きいだろう。

ただワセダとしては、勝つための戦い方が見えた。もっとセットプレーで圧倒する。キックの精度を上げ、タッチに出すときは思い切って観客席まで蹴り込む。つまりクイックスローインを避け、カウンターをもらわないようにする。キックチェースは厳しくする。

あとは『先手必勝』。常にリードを保ち、ワセダは追われる側に回らなければ勝機はない。これで春、夏合宿に続き、対抗戦でも帝京に敗れた。が、後藤禎和監督は言った。

「負け惜しみや強がりではなく、(帝京大との)距離は縮まっているとの実感はあります。今まで通り、プレーの精度を高めていけば、必ず逆転できます」

問題は時間である。両校の距離はともかく、これまでの大学ラグビーの戦いぶりをみる限り、全国大学選手権で帝京大の連覇をストップするとしたらワセダしかいないのではないか。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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