なぜ日本ラグビーは歴史的勝利を挙げられたのか

勝った、勝った、ついに勝った。1973年の初対戦以来、実に13度目の対戦で、古豪ウェールズをやっつけた。ほぼ満員の2万1千のスタンドが大歓声で揺れる中、日本代表の選手たちはガッツポーズを繰り返した。殊勲のSH田中史朗はインタビューでつい、感激の涙を流した。

「ずっといろんな方に応援していただいて、結果を残すことができなかった。ウェールズは2軍なんですけれど、ちゃんと代表としてきているので、そこに勝てて、応援してくれた方に恩返しができた。(歓声が)気持ちよかったし、うれしかった。感謝の気持ちもあって…。感極まってしまいました」

確かにウェールズはブリティッシュ&アイリッシュライオンズ遠征にベストの15選手をとられ、若手主体の編成だった。しかも梅雨特有のひどい蒸し暑さにヘロヘロだった。ただ、そうはいっても、ウェールズはウェールズ。6カ国対抗を2連覇した世界ランキング5位のチームである。その相手に実力勝ちした。ふだんのハードワークゆえの体力と、組織的なディフェンス、セットプレーの安定、全員の勝利への執着があったからである。

ポイントのシーンは2つ。最初の立ち上がり、日本がPKをもらった時、SH田中がボールを渡さない相手SHウィリアムズに食ってかかっていった。田中166センチ、相手は183センチ。これに日本のFWが加勢し、相手FWと小競り合いになりそうになった。

田中の小さなからだから覇気があふれ出る。チームの闘志に火をつけた。エディー・ジョーンズヘッドコーチは振り返る。「フミ(田中)が最初のファイトでやってくれた。フミはクイックアタックをやりたかった。FWがサポートした。ジャパンに心理的に大きなメッセージを出してくれた」と。

この日の日本FWはよくやった。ブレイクダウンでは二人目の寄りが低くはやかった。タックルでも低く突き刺さる。さらに、2人目がしぶとく絡んでいく。倒れてもすぐに立ち上がり、とくにコンタクトすると激しく足をかきつづけた。ロックの大野均は漏らす。「“フロント・フット・ラグビー”です。1歩でも前へ。どんな時でも前へ、でした」

接点で日本が優位に立つ。ブレイクダウンではやい球出しができれば、日本のリズムとなる。後半8分。連続攻撃を仕掛け、SH田中からCTBクレイグ・ウィングに渡り、右隅に逆転トライを挙げた。さらに19分、CTBウイングがラインブレイクし、ラックを連取、最後はSH田中が右に回り、二人を飛ばして、CTBマレ・サウにパスし、外にフォローしたFLマイケル・ブロードハーストが右隅に飛び込んだ。

もうひとつのポイントが、ウェールズの反撃を受け始めた後半20分過ぎのスクラムである。相手ボールのゴール前ピンチ。PKをとられ、スクラムを選択された。フッカー堀江翔太の述懐。「スクラムトライを狙ってくると思った。集中力が増しました。8人で意識して、まとまって押した」

ここで相手ボールを奪取したのである。これは大きかった。スクラムの安定の理由は3つ。FW個々が筋力アップしていること、相手がひどく疲れていたこと、さらには日本が相手に対してうまく修正したこと。相手3番が内に入ってくるため、右に流れ気味になっていたが、8人がまとまり、右の3番アップを意識した。これでガチッと押し込めた。

地味ながら、後半途中で入った右プロップ畠山健介もよく頑張った。セットプレーとブレイクダウンが安定すれば、攻守にリズムが生まれる。我慢ができる。さらにこの日はFB五郎丸歩のキックの精度も高かった。五郎丸はにこやかな笑顔を浮かべる。「(ほぼ満員の観衆の中で蹴るのは)気持ちいいですよ」

日本はチームに練習で、試合以上のハードワークを課してきた。その成果が出つつある。ジョーンズHCは言う。

「選手たちを誇りに思う。今日は新たな歴史を築きました。世界のトップ10にテストマッチで勝つことができた。満員の観衆もあったし、日本ラグビーにとっては素晴らしいことだと思う。強化の方向は間違っていないことが確認できた。でももっと強く、もっとはやくならないといけない。(世界トップ10入りへの)道のりはまだ遠い」

日本代表は休む間もなく、16日から、次のカナダ戦に向けた練習に入る。