なぜ室伏選手の当選無効は覆らなかったのか

ハンマー投げの室伏広治選手が国際オリンピック委員会(IOC)選手委員選挙で当選無効とされた問題で、スポーツ仲裁裁判所(CAS)は、室伏選手と日本オリンピック委員会(JOC)の無効取り消しを求めた訴えを却下した。結論だけで、その根拠はほとんど示されず、裁定理由は「数日後」に示すとされた。ナンナノダ、コレは。

もし後日、CASから判断の根拠を示されても、JOCや周囲は何の反論もできまい。なぜ通常の事例のごとく、結論と理由を同時に明らかにしないのか。CASはIOCによって創設された。今さらながら、IOCや関係機関の権威主義には違和感をおぼえる。

CASの裁定は、欧米出身の3人の仲裁人の一致で決まった。CASはリリースで「IOCの決定を支持する」と説明。その根拠として「JOCが選挙活動のルールと規則に従わなかったため」とし、具体的な内容には一切触れなかった。ただ「室伏選手の名声とスポーツマンシップは損なわれていない」と強調されている。

22日夜のJOCの記者会見。「非常に残念なんですが」と野上義二国際専門部会長は困惑顔だった。「CASの判断に至った経緯、何を根拠としているのかについては、コメントしかねる状況です。我々の支援活動の何が、どのルールに違反であったのか、まだわかりません」と。

実は昨年、IOC選手委員選挙の規則が厳格化されていた。JOCと室伏選手は、その規則への認識が甘かったようだ。ロンドン五輪期間中、室伏選手サイドは(1)名前を入れた携帯クリーナーを配布(2)選手村に室伏選手の写真入り反ドーピング運動ポスター掲示(3)日本選手団向けに投票手順書の日本語訳を配布―の3点に対して警告を受け、すべてを即座に回収した。さらには(4)食堂でiPadを用いた選挙活動をした、ともIOC側から指摘された。

どれもグレーゾーンといえば、グレーだろう。IOCはあくまで、2度にわたる警告の累積として、「当選無効」の判断を下したのだから、(4)が警告に相当すると判断されたもようだ。でも、それはJOCの責任なのか。明確な証拠はあるのか。これを持って、当選失格とするほどのことなのか。

おそらく、室伏選手サイドは、(4)は選挙活動ではなかった、との弁明をしたに違いない。結果として、CASはIOCの判断を尊重し、室伏選手らの訴えを退けた。

問題は、2020年東京五輪パラリンピック招致活動、いや日本スポーツ界への影響だろう。いくら室伏選手の個人の名誉が守られても、これでIOC選手委員として、IOC委員たちに東京五輪パラ招致活動をアピールすることはできなくなった。日本人のIOC委員が1人のままとなるのだから、将来の日本スポーツ界への影響も少なくない。

ロンドン五輪のIOC選手委員選挙には4人の当選枠に対し、21人が立候補した。投票の結果、1位は室伏選手、2位が台湾のテコンドー選手、3位がスロバキアの射撃選手、4位が豪州のボート選手となった。

選挙違反があったとして、室伏選手、台湾選手が失格となり、5位のジンバブエの水泳選手、6位のフランスのカヌー選手が繰り上げ当選となる。

室伏選手とJOCはこの決定を不服として、昨年9月にCASに提訴。4月にローザンヌ(スイス)で室伏選手や双方の関係者によるヒアリング(聴聞会)が開かれていた。

思うに、室伏選手の当選無効が覆らなかったのは、IOCの欧州中心主義と権威主義、JOCの国際力不足と無関係ではあるまい。

【「スポーツ屋台村」(五輪&ラグビー)より】