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ジャパンの新星・福岡の飛躍のワケ

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

新芽のごとく、ラグビー日本代表に「スピードスター」が現れた。福岡出身のWTB福岡堅樹(筑波大)である。デビューするや、トライを量産。飛躍のワケは、ラグビーに対する「ときめき」ではないか。

日曜日の秩父宮ラグビー場。日本代表の練習をのぞけば、太陽の光を浴びながら、ハタチの福岡が躍動していた。はやい。キレがある。50メートルを5秒8で走る。

代表入りしてまだ約1ケ月。「(ジャパンの)コールとかひとつひとつ覚えていかないといけない。どういう風に声をかけていいのか、まだ戸惑いの部分があります。少しずつ慣れてきましたが…」。175センチ、83キロは、実直そうな笑顔を浮かべる。

鮮烈なジャパンデビューだった。アジア5カ国対抗のフィリピン戦(4月20日)、韓国戦(5月4日)でそれぞれ2トライを奪取した。「自分のスピードで相手を抜ける間合いをつかんできました」。鋭利なステップ、瞬間ダッシュもだが、忠実なバッキングアップからのタックルでも光り輝いた。

どうして活躍できたと思いますか、と素朴な質問を投げれば、「自分の中では浪人の1年間が大きかったと思います」と言う。福岡は福岡高時代から俊足で有名だったが、両ひざのじん帯を損傷していた。現役で筑波大の医学部に合格できず、1年の浪人生活のあと、昨年、筑波大の情報学群に入学した。

「浪人中に(両ひざの)けがをしっかり治すことができました。また、新しくラグビーに取り組むという意味でもよかったのか、と思います。ラグビーをやりたいなという気持ちが強くなりました」

スピードにまつわる逸話は多い。例えば、高校時代、ステップを切ったら、あまりに鋭かったため、足の裏の皮がはげたという。「暑くて(皮が)ふやけていたので、ステップを切ったときに、べりっといって」。高校2年の時、普通のシューズで陸上トラックを走って、100メートル11秒2をマークした。陸上用スパイクシューズなら10秒台も、と声をかければ、「そうですね」とあっさり言うのだ。

これから、日本代表はトンガ代表やフィジー代表、ウェールズ代表などとの試合が続く。

「相手のレベルが上がる。こわい部分と楽しみな部分があります。自分のスピードがどこまで通用するのか。(試合に)出たいです」

好きな言葉が、故スティーブ・ジョブズの『Stay Hungry、Stay Foolish(ハングリーであれ。愚か者であれ』。つまりは、いつまでも今の新鮮な気持ちを忘れるな、という意味か。ハタチの福岡が「ときめき」を胸に走りまくる。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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