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スマイルジャパンになったワケ

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

やはり笑顔はいい。来年のソチ五輪出場を決めたアイスホッケー女子日本代表の愛称が「SMILE JAPAN」(スマイルジャパン)に決まった。なぜ、そうなったのか。

いまや実力、人気とも上昇気流に乗る女子日本代表である。28日のホテルでの記者会見もメディアが数十人集まった。「イチ、ニッ、サンッ。どうぞ」。司会者の掛け声で白い幕が外された。白いボードには「SMILE JAPAN」。愛称とロゴマークのお披露目。壇上の選手たちには笑顔がはじけ、拍手と笑い声と歓声が沸き起こった。

大沢ちほ主将が説明する。「オリンピック最終予選の舞台でアイスホッケーを楽しむことができました。いつも通り、どんな状況でも笑顔でプレーすることで最高の結果を残せたのです」。だから、「楽しむ」こと、スマイルがモットーなのだ。

どんなに練習していても、大きな舞台では選手は緊張する。五輪最終予選の事前合宿での練習試合前、飯塚祐司監督は「失点を恐れなくていい、笑顔でプレーしよう」と選手に声をかけた。控室のホワイトボードに選手が「笑顔を忘れずに」と書いたそうだ。

チームにプレーを楽しむことを根付かせたのが、女子アイスホッケーの元カナダ代表の2大会連続金メダリスト、マクラウド・カーラコーチである。2月の五輪最終予選。初戦のノルウェー戦の前、選手と“グータッチ”をして、一人ひとりに「スマイル」と声をかけた。試合はいきなり3点のビハインドを背負う。だが1点を返した後の第2ピリオド後のロッカー室、選手たちの表情は意外にも明るかった。

飯塚監督が言う。

「その時、笑顔を絶やさないチームだなと思いました。4年前のバンクーバー五輪予選の時より、チームの雰囲気が明るくて、リードされていても笑顔を絶やさない。ものすごくチームにフィットしたネーム(愛称)だなと思います」

そのノルウェー戦。第3ピリオドで3点を奪い、日本は4-3で逆転勝利を収めた。これが結局、五輪キップにつながった。

カーラ・コーチのスマイル体験は、地元の2010年バンクーバー五輪の決勝戦。満員1万8千人の大声援を浴び、「マウスガードを外して、笑顔で行こうと決めたのです」という。「楽しめば、すべてうまくいく。スマイルでいけば、もっと試合を楽しむことができます。このチームは明るく、(試合での)緊張はあまりない。選手は笑うのが好きなんです。スマイル! スマイルで最高の結果を」

もちろんスマイルの裏付けは、ふだんのハードトレーニングにある。さらに昨年2月の合宿にカーラ・コーチがスタッフに加わり、昨年11月からはメンタルトレーナーも合流するようになった。チームの雰囲気が変わったのである。

注目度がアップし、公式スポンサーも4月から3社が加わり、7社となる。もう笑いが止まらない。「スマイルジャパン」がソチ五輪のメダル獲得に向け、笑顔で走るのである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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