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ラグビー日本選手権の改革のカギは。

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

ラグビーの日本選手権はベスト4が出そろった。今回が第50回の節目とあってか、巷では改革論議がにぎやかなようだ。では改革が必要というのなら、どんなカタチがいいのか。2019年のワールドカップ(W杯)日本大会に向け、日本ラグビーの強化と人気アップに焦点を絞ると、試合の「戦力均衡」と「明快さ」がキーワードとなる。

10日の日本選手権準々決勝(秩父宮)では、一部主力を温存したパナソニックが大学4連覇の帝京大に54-21で完勝した。実力差は歴然だった。NHKが全国生中継しながら、観客は7千7百人だった。正直、試合内容もスタンドも寂しかった。試合後、パナソニックのFB田邉淳は「(帝京大は)4連覇したのに、最後はミスマッチ。これで終わるのはかわいそうかな」と漏らした。

「もうちょっと(日本選手権の在り方を)考える余地があるのかな、と思います。何を目標にするのかが、あいまいなのです。(シーズン当初)僕らはトップリーグの優勝を目指す。学生チームは大学日本一、クラブチームはクラブチャンピオンでしょ。では、日本選手権は何なのでしょう」

その通りだろう。日本選手権の意義があいまいとなっている。日本一の実力を争う大会というのなら、トップリーグのプレーオフがふさわしい。実力だけをいえば、海外で代表レベルのチームと下の年代レベルのチームを同列で戦わせることはまず、ないだろう。「ミスマッチ」だからである。

ミスマッチとは、不均衡な戦力の試合、釣り合わない実力同士の試合を指す。ラグビーのようなコンタクトスポーツの場合、まともにぶつかれば、ケガのリスクも生まれる。

ついでにいえば、帝京大は1回戦で全国クラブ大会覇者の六甲ファイティングブルに115-5で圧勝している。失礼ながら、これは文句なしのミスマッチである。

歴史を簡単に振り返れば、日本選手権の前身、社会人チームと大学チームが覇権を争うNHK杯は1960(昭和35)年度に始まった。その3年後の63(同38)年度に第1回日本選手権が行われ、同志社大が近鉄を破って優勝を遂げた。その翌年から、全国社会人大会と全国大学選手権の王者が激突するカタチとなり、10数年の戦績はほぼ互角だった。毎年1月15日の日本選手権は風物詩となり、やがて国立競技場には満杯の人が詰め掛けた。

新日鉄釜石が黄金時代に入ると、学生は社会人にほとんど勝てなくなった。だが85(昭和60)年度は慶応大が、87(同62)年度には早稲田大がそれぞれ覇権を奪った。これが最後の学生の優勝となる。

日本選手権のフォーマットは1997(平成6)年度から社会人覇者×大学王者の一騎打ちの方式が変更されてきた。2003(同15)年度からトップリーグ(TL)が始まり、TLチームと大学チームの実力差は年々、広がってきた。大学がTLに勝ったのは、2005(同17)年度の準々決勝で早稲田大がトヨタ自動車を倒した試合だけである。

もはや大学チームが日本選手権で優勝することはできないだろう。ただ矛盾するようだが、学生がTLチームにチャレンジすることには意味がある。戦力的に上のチームをどうやって倒すのか。そこに知恵と工夫、緻密な準備が求められるからである。

では、どうやって、日本選手権を魅力あるものに変えるのか。マイナーチェンジをするなら、フォーマットを少し変える。まず試合の「戦力均衡」を考えるなら、出場決定戦を設け、大学選手権覇者、大学選手権準優勝、クラブ選手権覇者は、社会人のトップイースト、トップウエスト、トップキュウシュウの覇者と対戦する。本戦の出場チーム数を現行と同じく10チームにするなら、出場決定戦勝者(ワイルドカード)とTL上位7チームが本戦に参加する。

本戦でTL1~4位はシードされ、出場決定戦から勝ち上がったチームが1回戦でTL5、6、7位チームと対戦する。これなら、大学チームもクラブチームも日本選手権への門戸が開かれる。ミスマッチは少なくなる。

また「戦力均衡」に加え、「明快さ」、即ち、わかりやすさを考えるなら、TLのプレーオフ(4強)を日本選手権に衣替えする。併せて、現行の日本選手権を「カップ戦」に変えるというのはどうだろう。

あるいは、TLのプレーオフを日本選手権とし、TLが終わった時点で、TL1位チームと、大学王者の一騎打ち(昔の日本選手権)のチャレンジマッチを実施する。その場合、カップ戦を別の時期(8月のナイタ―試合など)に移行する。

ここで視点を変える。日本代表の強化を考えるなら、日本選手権の改革と合わせ、国内の年間スケジュールも考える必要があるのではないか。エディー・ジョーンズ日本代表ヘッドコーチは、日本の強化のためには「スーパーラグビーでプレーする選手が15人~20人になってほしい」と言う。

スーパーラグビーとは、南半球3カ国(ニュージーランド、豪州、南アフリカ)のプロクラブチームのリーグ戦。ことし、パナソニックのフッカー堀江翔太、SH田中史朗、東芝のFLマイケル・リーチがそのクラブに移籍する。その開催期間(2月~7月)を外すようにTLチームの国内マッチのスケジューリングを組めば、もっと多くの選手がスーパーラグビーに挑戦しやすい環境がつくられることになるだろう。

いずれにしろ、日本選手権に何を求めるのか、あるいは何にポイントを置いて考えるのかで改革の道筋が変わってくる。「これがベスト」は、ない。だが、難儀ながらも、今のカタチを変えなければいけないのは間違いなかろう。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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