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いざ決戦。王者帝京大、史上初の4連覇に必要なコトは。

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

いざ決戦である。ラグビーの大学選手権の決勝は13日午後1時に東京・国立競技場でキックオフされる。史上初の4連覇を目指す王者・帝京大は12日午前、東京・日野市のグラウンドで最終調整をした。練習後、勝利に必要なコトは?と聞かれると、岩出雅之監督は淡々とした口調で答えた。「相手にとって怖がられる部分がどこかということでしょう。そこをしっかり出し切ることじゃないでしょうか」と。自信アリ、にみえた。

筑波大が怖がる部分とは、伝統のフィジカルの強さ、パワフルなFWの力である。とくにポイントはスクラムとブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)だろう。まずは、前回(昨年12月1日)敗れた対抗戦の筑波大戦では不安定だったスクラムで優位に立ち、重圧をかけたい。主将のフッカーの泉敬のスクラムワークと8人の結束がカギとなる。

ブレイクダウンはもちろん、1人目が大事だが、2人目の寄りも重要となる。筑波大の強みである「ディフェンスからの切り返し」を封じるためにも、ここでのターンオーバーは許したくない。逆に相手ボールでは粘り強いタックルと絡みで、球出しのペースを遅らせたい。そういった意味で、準決勝で左足を痛めたナンバー8の李聖彰の「見事な復活劇」(岩出監督)は好材料である。

SHはテンポのいい2年生・流大が先発出場する。この日のコンビ練習でも鋭い動きを披露し、ラインを勢い付かせていた。SO中村亮土の鋭いランもさえた。練習最後は、試合に出ない部員全員に見守られながら、試合メンバーがタックルダミーに次々と突き刺さった。冬の陽射しの下、グラウンド脇でのジャージ渡しの儀式では、岩出監督が深紅のジャージに白い塩をまいて、一人ひとりに名前を呼んで手渡した。

終わると、主将の泉が声を張り上げた。「エンジョイ、アンド、チームワーク! 最高の監督、スタッフ、トレーナー、マネジャー。そして146人の仲間、全員で勝って笑うぞ。心をひとつにして。まずタックル、泥臭く、ひたむきに、死ぬまでやろう」と。言葉通り、1対1のタックルからリズムをつかむつもりだ。

じつは帝京大の強みは、ふだんの規律ある生活からきている。それが「カルチャー」となりつつある。練習後、報道陣に囲まれると、岩出監督は独りごとのようにつぶやいた。「学生自身がしっかりとした向上心を持った中で、苦しい日々を積み上げてきてくれた。その積み上げの強さが成果となり、決勝を迎えることができました」

勝てば、史上初の4連覇という新しい歴史が創られる。「そういう機会を与えられて、僕自身も、学生も幸せだと思います。先輩のがんばりが今につながっている」。相手の筑波大は国立大として初の決勝進出。岩出監督は言葉に実感をこめた。「積み上げての文化、積み上げのプレーが(相手と)どう違うのかということを楽しみにしています」

チームをほどよい緊張感と自信がつつむ。練習後、ラグビーグラウンドの周りを歩けば、試合に出ない上級生たちが、近所の側溝の掃除を黙々としていたのだった。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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