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渡辺明三冠(35)A級順位戦独走の7連勝 初の名人挑戦権獲得まであと1勝

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

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勝てばプレーオフ以上確定 A級順位戦6連勝中の渡辺明三冠(35)1月4日に稲葉陽八段(31)と対戦

 1月4日。大阪の関西将棋会館においてA級順位戦7回戦▲稲葉陽八段(31歳)-△渡辺明三冠(35歳)戦がおこなわれました。10時に始まった対局は22時19分に終局。結果は94手で渡辺三冠の勝ちとなりました。

 渡辺三冠はこれで7勝0敗。初の名人挑戦権獲得まであと1勝としました。また4勝2敗で成績上位2番手の広瀬章人八段、三浦弘行九段のいずれもが7回戦で敗れた場合、その次点で名人挑戦が決まります。

 また渡辺三冠は残り2戦を敗れても、プレーオフ進出までは確定しています。

 敗れた稲葉八段は3勝4敗。名人挑戦の可能性はここでなくなりました。また3敗勢も届かないことになりました。

とにかく強い渡辺三冠、勢い止まらず完勝

 本日1月4日、群馬県高崎市では恒例の上州将棋まつりが開催されていました。

 まだ新年のイベントが開催されている時でもあります。多くの方にとってもまだ、気持ちはお正月だと思われます。そうした中で、将棋界では一足早く、A級の公式対局がおこなわれました。

 対局者の所属が関東と関西で分かれている場合、一般的には席次の下位の側が移動をして対局をすることになります。ただし順位戦の場合は公平を期すために、席次は関係なく、移動の回数が同じとなるように調整されます。そのため、うっかり勘違いで対局場を間違えてしまった、ということもごくまれに起こります。

 渡辺三冠は関東。稲葉八段は関西の所属。本局は席次上位の渡辺三冠が大阪に移動しました。

 先手の稲葉八段は飛車先の歩を突き進め、定跡形からはずれた相居飛車の戦いとなりました。

 先手番の稲葉八段が銀を手早く前に進め、速攻の構えを見せます。対して、渡辺三冠はさらに足早の桂を跳ねていき、渡辺三冠が先攻する展開となりました。

 渡辺三冠の動きは機敏だったようで、まずはポイントを挙げました。

 稲葉八段が強気の受けを見せたのに対して、渡辺三冠は的確に攻め続けます。交換して得た桂を攻めの起点にすえ、角を成り込んで馬を作り、打った桂は守りの銀と交換するという戦果をあげました。さらにリードを広げました。

 渡辺三冠の玉は1度も動かない「居玉」のままでしたが、左右からの攻めに一番遠く、そこがベストのポジションだったようです。

 中盤で差がついてしまった後、稲葉八段からは時折ため息がもれました。

 渡辺三冠は飛を切って金を取った直後に飛金両取りをかけ、そのやり取りで金得を果たしました。稲葉八段はその損に甘んじて飛を手にして反撃を試みますが、及びませんでした。

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 渡辺三冠はこれでA級7連勝。名人挑戦権獲得まであと一歩のところにまで来ました。

 前期B級1組の12連勝から継続して、順位戦連勝記録は19連勝となりました。

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 今や当たるべからざる勢いの渡辺三冠。2019年度成績はこれで29勝5敗(勝率0.852)となりました。中原誠16世名人が1967年度に記録した年間最高勝率0.855(47勝8敗)を上回る可能性も、依然十分に残されています。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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